花田学園 日本鍼灸理療専門学校

この学校の夜間部 鍼灸マッサージ本科で学びました。花田学園はどんな学校なのでしょうか?鍼灸マッサージ治療って?職業としてはどうなのかな?などなど、私見もたくさん加えて学校のことやその周辺のあれこれを少し書いてみたいと思います。

 

◎鍼灸按摩マッサージ指圧教育については全体的に中庸で、東西医学のどちらかに偏ることなく指導する方針は鍼灸治療の実態に沿っていると思います。私は今もこのスタイルで学び治療していますが、現場に於いてもこれが正しかったのだと感じさせる症例が多いと実感しています。

 

・スポーツや事故・脳梗塞などによる障害には、西洋医学・解剖生理学系の鍼灸マッサージが良い

⇒下に書きますが人体の解剖学・生理学的な反応を活用する治療技術で、鍼灸マッサージ術により特に血流をコントロールし筋腱をほぐすことを起点に治癒を進める手法と言えます。例えば鍼とマッサージの組み合わせ治療で、凝りや張りのある筋肉を直接ほぐして血流を促進し痛みや拘縮を軽減し障害の治癒を促します。注射針は先端を斜めに切り落とした刃物状になっているのですが、鍼灸で使う針は先端が丸くなっており、組織の間を傷つけることなくすべり込みます。つまり、とても細い指先で筋肉を内側からマッサージでほぐすような体に優しい治療と言えるのです。加えて体の外側からもマッサージをかければ効果が倍増するわけです。

鍼灸マッサージ師は患者さんの症状から障害部位を見定めて直接的に治すことに長けていますから、その場で痛みが軽減することもあり得ます。

 

・体質や性格に生活習慣やストレス等からくる病気には、東洋医学・経絡系の鍼灸マッサージが著効を示す 

⇒こちらも下に述べますが、人は小自然、天地は大自然。両者はツボを通じて「気」で繋がっていて、あちらは大きくこちらは小さい。小さいものが大きなものから恵みを得ながらも小さなものが大きなものを守り整えていく…という広大なスケールの世界観をベースに置いた自然療法と言えます。 例えば鍼や灸や指圧で手足のツボを通じ自然界の澄んだ「気」を取り込み心や体の不調を改善します。また、よく耕しととのえ活気に満ちた土や森から採れる大地の気あふれる野菜や生薬の原気を漢方や薬膳の知恵を通じてもらい受け、体内からも滋養強壮することなども考え合わせます。つまり自然界と人間界をつなぎ循環させて根本的な健康を獲得しようとするのが東洋医学なのです。

「気」などと言われると何か得体の知れぬものと思う人がいるかもしれませんが、このサイトをお読みいただければ気と東洋医学が再現性のある科学であり、気は実際に体感できるレベルのエネルギーであって、その実在は一般にはあまり広くは知られていないけれどその運用方法を知れば当たり前に実用化できるものなのだ、ということをご理解いただけると思います。

 

花田では東西医学を上手に組み合わせた効果的な治療の基本を学ぶことになります。

 

◎この学校の持ち味は何と言っても熱心な教授陣です。医学にも教育にも一生懸命な先生方が、ご自身の研究にかける思いを絡めながら担当科目を指導する姿には熱いものを感じます。大きく分けて鍼灸教員科卒の先生と医大・総合病院現役ドクターの客員教授がおられますが、どなたも担当分野のスペシャリストで著名な方も多く、深い知識と経験をお持ちですから学ぶものも多いと思います。それぞれの先生がそれぞれのこだわりと専門分野を持っておられるためか、先生方の横のつながりが少し弱いような、単独で授業をされているような印象を受ける時もありましたが、むしろそこが面白いところです。どの先生も統率されたように同じ事を言うようではつまらない。もちろん基本は教科書に沿った授業なのですが、ご自身の得意分野・専門分野と重なるページになると先生方の声のトーンも上がり、非常に興味深い研究内容や見解を伺う機会がありました。先生がマイクを切った時こそ(つまり教科書に載っていないことをこっそり言おうとしている!)興味深い話が飛び出しますから聞き逃さないようにしましょう。こういった大人の有意義な寄り道こそが授業の醍醐味だと私は思います。教科書のまんまなら自分で読めばいいのですから。先生によっては教科書だけでは足りない!と、プリントをたくさん配布する方もおられますのでまとめが大切になります。

 

◎授業の雰囲気としては、キビキビと指導する先生からゆったり進める先生まで様々なタイプの方がおられましたが、どなたも真剣かつ活気のある楽しい授業をしたい、との意識をお持ちであるように感じました。また全体として学生とのコミュニケーションや質問への対応を大切にしようというフレンドリーなムードでしょうか。授業内容に興味を持ち素敵な先生方を囲んで東西医学にのめり込んで楽しく学ぼうとする人には素晴らしい環境と思います。座学の授業はクラス全員60名、実技はA組とB組30名ずつで受けます。1年次はゆったりとスタートし、2年次から各科目の内容とペースが増してきます。3年次には国家試験対策が加わり受験ムードが盛り上がってきます。

学内試験は実技・座学ともに授業で習った通りの内容で、先生によって多少は難易度の差があっても難解な問題で学生を締め上げるようなことはありませんでした。世間でよく言われるような「医療の学校は国家試験合格率が命だから出来の悪い学生は落第させて国試を受けさせないように操作している」などといった感じも花田に関する限りでは皆無でした。先生方はみんな温かく学生を応援しています。ただ、尻上がりに内容が濃くなってくるのは落ちては困る国家試験と、本人の実力が問われる卒後の就業を考えた上での当然の指導と言えます。人様の体に鍼を打ち、お灸をすえ、按摩マッサージ指圧をするには、相応の大きな責任を負うことにもなるわけですから。

総じて言えば、これをお読みの受験生の皆さんやそのご父兄様、どなたにとってもこの花田学園日本鍼灸理療専門学校はそこそこバランスの取れた、鍼灸マッサージ師としての基本を無理なく楽しくちょっと厳しくも片寄り無く、普通に学び体得できる標準的な専門学校と言えるのではないでしょうか。感覚的に言えば、入学してから授業⇒試験⇒夏休み⇒行事⇒授業⇒昇級⇒国家試験準備へ…っというプロセスの各段階に伝統校ならではの良く練り上げられた様々な役に立つ味付けのされたイベントが備えてある、という感じでしょうか。次から次へとやってくるので飽きません、と言うより飽きさせないようにアレンジしてるのでしょうね。たぶんご自身もご両親も、その全貌を体験したらなるほど良くできているな、と納得されると思います。なのに割かしのんびりしてるんです。余裕があっていいと思います。「ちょっと緩いんじゃないの!?」とコワい顔して言うストイックな人もクラスにいましたが、反対に「アタシもう頭が限界だわ!」と試験前に髪を振り乱してる人もいましたか。まあ夜間部は仕事もしてる人がほとんどですからあんまりキツキツだと困るんですよね。私はちょうどよかったです。当時は毎日のように各スポーツクラブで気功のレッスンを何本もやってて、夕方になってけっこうヘトヘトで渋谷に通うと櫻井校長が門前に立っていらして「おお!今日もがんばれよ!」と気合い入れてくださってね。ほかの先生方も明るい人が多いです。温かみのある学校ですよ。この時代の大都会にあって、こんな風に人間関係を大切にする場所もあるんだなぁ…人と人が触れ合う自然療法の世界だからなのかな?などと私は思いました。

 花田と言うと世間ではスポーツ鍼灸マッサージに強いというイメージが先行するようだし実際AT科やAT研究会などでは実践的な指導・訓練もしていて卒業生の多くがプロスポーツやオリンピックなどのトレーナーチームで活躍しているのは周知のとおりです。私が気功のインストラクターとして出入りしている大手フィットネスクラブでも花田卒のトレーナーさんにたくさんお会いします。私の場合はもともと気功・漢方寄りの思考だったし経絡治療大家の木戸正雄先生や東洋医学パルス鍼療法で知られる澤津川正一先生、澤田流の名人山田勝弘先生らの授業を三年間受け、卒後は澤津川先生の研修を二年ほど受けたためか、東洋医学にも強い学校という印象があります。

 

◎先走った話ですが授業科目の中に、他の全ての教科を理解するために重要な基礎科目がいくつかあります。西洋医学では解剖学と生理学。東洋医学では経絡経穴学と東洋医学概論の4教科です。例えば鍼灸理論という応用科目では東洋医学概論と経絡経穴学に生理学も絡む内容になっていますし、臨床医学各論という科目は解剖学と生理学を基礎知識として様々な病態について学ぶことになります。これら基礎4科目をザッと見ておくことで入学してから最初の試験も、またそれ以降もゆったり慌てずに楽しみながら取り組めますので、仕事で予復習の時間が取りにくくて不安だと思う人は入学前に通販などで教科書を買って全体を把握しておくと良いかも知れません。(教科書の改訂年度と重なると授業では使えないのでご注意を!ちなみに私が入学した時はほとんどの人が新品の教科書をフルセットで買っていたのですが、既に持っている教科書がある人はそれ以外を購入すれば良い、という形になっていました) 

私自身もやはり仕事が忙しかったものですから、当時新宿にあった医道の日本社書店に行って4月から仕事と学業を兼ねるので予習したいと正直に相談したところ「図説 東洋医学」と「からだの地図帳」を勧められ購入し、ツボから生理学・解剖学まで、ザーッと予習しました。どちらもキャッチ―で実践的な図解が満載の今でも参考にできる本格的な東洋医学書であり解剖生理学書です。お陰で入学時から割かしスムーズに入ることができました。ただ、教科書とは微妙に違う内容が含まれますので効率を考えるならやはり教科書を見ておくのがベストかな?とは思います。

3年後にひかえる国家試験をプレッシャーに感じる人は国試の過去問集を買って早々にはじめてしまう手もあります。いきなりやっても分かりにくいので基礎4科目をある程度理解したころから取り組めばけっこう自力でいけます。私はこれを一年次から少しずつやってましたので国試前でも全然へっちゃらでした。過去問集は解説がしっかりしたものを選びましょう。解剖学のところは解説文だけでなく必ず教科書の図解を横目で見ながら進めます。

 

・経絡経穴学はツボをどんどん覚えていくので、まずは掛け算の九九のようにツボの名前を最初からザッと言えるようにしておくと、これだけでもかなり使えます。慣れてきたら各ツボに触れ、鍼を打ち、灸をすえ、指圧をかけてみましょう。これを繰り返すと本人にしか分からない発見が積み重なってきて必ず臨床に活かされます。余裕があればツボの場所(寸法)と、漢字と、重要穴のチェック(原穴・郄穴・絡穴など、特に手足先のツボは心身の変動に対して敏感なため穴性によるジャンル分けがなされていて施術の中心にもなり試験にもたくさん出題されるし、どのツボが何に効いてそれがなぜなのかを知るヒントにもなります)、そして欲を言えばツボの下にある筋肉や血管・神経まで軽く押さえておけば鍼灸学校の3年間はもちろん、国家試験にも卒業後の実務にも、ずっと使える基礎知識になってお勧めです。このあたりは授業で習うのを待つ必要はありません。自分から積極的にどんどん図解を見て触れておよそのところが分かった状態で授業を受けると楽しいし余裕だし結構なことです。

ついでに書きますが、この経絡経穴学の中心は体表にあるツボの場所(外経などと呼びます。電車で言えば地上路線です)を覚えることであり国家試験でもそこを問う問題が多く、実際の施術もツボに施すので重要なところと言えます。ところが、実はこれだけだと経絡経穴を表面半分しか知らないことになってしまうのです。ツボは経絡と言う気血の流れるルートに乗って体内深く筋骨五臓六腑まで進入しており(内経ナイケイ・地下鉄にあたります。黄帝内経コウテイダイケイとは別の話)この内外経全体像を意識した上での鍼灸マッサージ術こそが大きな治療効果を発揮すると言えます。勉強する中で「〇〇というツボは◎◎に効く」といった論拠不明な表現に何度も出会うのですが、内外経の関わりを理解した上で経絡経穴学を学ぶとご自身でその理由を推測することができるようになります。特に経絡治療や中医学などの東洋医学を中心とした治療を志す人はこのあたりを分かっていると必ず重宝しますから、同時に覚えておくと良いでしょう。内経については新版の教科書でも流注(るちゅう)としてサラッと短い文章で書いてあるだけなので担当の先生(武藤厚子先生?)から内経流注図のプリントが配布されたら教科書とあわせて外経⇔内経の全貌を見ておくと後がラクだし経絡経穴学の世界観に対する理解も深まりお勧めです。例えば陽明大腸経の流注では、商陽⇒二間⇒三間⇒合谷…っと進んで教科書の外経ではそのまま顔の迎香までまっすぐ至るのですが、内経ではその途中で缺盆という胃経のツボを経て肺と大腸までグーンと深くもぐりこむ様子が示されています。実は外経よりもこちらの内経への流入のほうが治療において重要になるケースもあるのです。このプリントはとても大切なので、もらったら教科書巻末の経絡図ページのあたりに必ずくっつけておいてください。コピーをとってあちこちに張り付けておくのも得策です。内経は経絡の命なのです。

 

・東洋医学概論は抽象的で曖昧な表現が多いので自分なりにイメージしながら読むと面白いです。あまり細かいことは気にせずに、東洋医学の考え方を大きくとらえるのがコツだと思います。理系出身の人や物事を論理的に考える人が面食らうのがこの科目なのですが、こういったタイプの人は童話や漫画にハリーポッター小説を読むような感覚でこの科目の世界での出来事をそのまんま受け入れて楽しむようにすると良いでしょう。例えば胃経が病むと「一人で戸を閉じてこもり、ひどければ高いところに昇って服を脱いで歌いだす」といった一見すると笑ってしまうような記述があるのですが、この根拠には「胃は土である」という漢方医学特有の考えが隠されています。土は水分や養分を受け入れながら種子を発芽させ様々な作物へ育てます。つまり土は多くの物事を考え計画して作り運用するわけで、これは人体においても同じなのです。漢方での土の働きは「受納・腐熟・和降(胃の役割)と運化・化成・昇精・統血・造血(脾の役割。脾=膵臓+脾臓)・および思考」つまり「様々な材料を受け入れ柔らかくしつつ沈めていき、そこから得た素材によって更に多くの物質を合成し血をも醸成しつつ規律正しく運び昇らせていくことを考える」なのです。実際の胃の機能も食事から得た食物を運びながら分解して各栄養素に細分化し要・不要を分別して新たな素材を作り出していく五臓六腑最初の関門(受納・腐熟・和降)で、その働きは精神状態に大きく左右されます。同じく脾(の膵臓)は膵液で糖・タンパク質・脂質を消化吸収せしめ、膵島から出るインスリンとグルカゴンで糖の必要量までコントロールしています(食物の精を抽出し昇らせる・昇精)。一方で脾(の脾臓)は古い赤血球を分解したり抗体を作るなど新たな血液を造るプロセスを整然とこなします(造血・統血と呼ぶ)。この胃脾・土が調子を崩して痛み吐き気がするとなれば「考えも及ばない状況に陥ってしまったので人目を避け見晴らしの良い高所に隠れ邪魔な衣服も脱ぎ捨てて歌でも詠んで思考を整えたい」っと思うのもわかります。ストレスが多いと胃が痛くなり消化不良をおこしますよね?その原因を避けてリラックスできれば胃の治癒が進むというプロセスを漢方的に表現すればこうなるわけです。更に踏み込んで漢方東洋医学理論に従い治療を進めれば根本的に胃を整えることになるわけです。

 この科目においては「教えてもらう」というスタンスよりも「自ら進んで解釈しよう」とする思考が功を奏すと思えます。なにせ大昔から今につながる伝統医学ですし、その途中で文化大革命やGHQなどにより長い伝統を誇る多くの重厚な書物が焼かれてしまった非常に残念な歴史を挟む文化でもあるわけですから、その間を結ぶ豊かな想像力はこの学びを高めてくれるのです。

 この科目を好きになることは鍼・灸・按摩はもちろん漢方薬・薬膳・気功をも含む漢方医学への共通の門戸を開くこととなり、広い視野で治療ができることにもつながります。

 

・解剖学は図解と本文を見比べながら筋肉や骨、内臓など、興味をもってどんどん読み進みましょう。この科目は図解をメインに勉強するのが大切で文字だけで覚えようとすると難しい面が出てきます。解剖図を頭の中にイメージする練習をしておくと後がラクです。鍼灸マッサージは体外からの刺激で行う治療ですし、運動療法とも関わりが出てきますので解剖学を好きになることは鍼灸マッサージ治療にとても大切なことです。筋肉や骨・関節については自分の体を触って動作と合わせて確認すると同時にクラスメートともどんどん触診しあって、頭だけでなく体で解剖学を学び、ついでにその部分の鍼マッサージまで互いに練習すれば経験値も上がります。「学生同士でやったってダメだよ」なんて笑う人もいましたがそんなことはまったくありません。学んでいる者同志ですから本物の技は意外にすぐ手元で見つかるものです。実際の関節の持ち方とかツボ指圧の角度とか、先生に習ってどうなるものばかりではないのですよ。大切なのは施術の実感と、施術を受けた相手からのフィードバック(結果を活かすこと)です。感想を率直に言いあえる関係からは得るものが大きいでしょう。

研修会とか勉強会とか色々ありますが、その指導者のキャリアとか話術とか居心地の良さとかの表面的なものだけに流されず中身を感じ取りましょう。現場でやるのは自分ひとりですよね?現場では自力がすべてなのです。実際の治療で重要になるのはご自身から湧きだす経験と知識と技術ですから学んだことをじゃんじゃん使い慣れ実用性を高めることが大切です。

解剖学では特に神経支配や筋肉の起始~停止、関節の構造やこれらの運動・負荷あたりは鍼やマッサージ治療の即戦力的な知識になるのでグッと乗り出して自ら修得しましょう。

 

・生理学は化学ですので指導教員がいないと分かりにくい部分もあるでしょうから、ザッと読んで自分なりに把握しておいて、自力で分からないところを見つけたらマークしておくと良いでしょう。体性感覚と自律神経の関係などは非常に面白いところです。また、あとで述べる軸索反射は鍼灸マッサージの生理学的論拠にもなりますので大切なところです。その他鍼灸マッサージと関係が深そうなページには特に集中してください。

生理学には高度な内容のプリントを配布して難解な授業をする先生も一部いらしてみんなゲッソリするのですが「あ、試験前にはポイント言いますから心配しないでくださいね」なんて言われホッとしてそのまんま居眠り…っていうのはダメですよね。期末試験の内容はあとでヒントをもらえるということならば、この難解なプリントと授業を攻略してみせるぞ!っと自力で理解しようとすれば非常に満足のいく深い知識が身に付くのです。先生の意図も読まないと…教科書の内容はもちろん網羅するし国家試験もクリアーできる授業にしてるけど、それだけじゃ薄いところもあるよね?知っといて損はないでしょ?ということ。

 国家試験に合格することは最重要課題ですから、それさえクリアーできればあとはラクにやりたいと思うのはわかります。ところが免許を取得したあと、様々な現場でお仕事をする中で登場するのが「報告書」です。鍼でも灸でもマッサージ治療でも、そしてこれらが関わる職域のデイサービスや老人ホーム、訪問鍼灸マッサージに整形外科や接骨院等々。どこであろうと必ずつきまとうのが「〇〇報告書」の提出なのです。この報告書を読むのが誰なのかと言うと、院長先生をはじめとして、医師・歯科医師・看護師・ケアマネ・介護福祉士にPT・OT・栄養士、そして患者様ご本人とそのご家族ですから、ちゃんと勉強してきた医療従事者として最低限の表現が必要になります。稚拙な内容では通用しないし下手すれば相手方から問い合わせを喰らうことにもなりかねません。漢方・東洋医学を中心にやりたい人でも報告書の提出先を見ればわかるとおりで漢方言葉は通じませんから西洋医学的表現も要りますね。もちろん大げさなものは必要ありません。初歩的な医療用語を織り交ぜながらそこそこ分かりやすく無難な報告書を書いていれば全員に認められ信頼を得ることにもなるでしょう。このあたり生理学・解剖学・臨床医学総論/各論・リハビリテーション医学あたりが関連科目になります。なので花田の3年間は手抜きせずガッツリ勉強しておきましょう。ダラダラやる人たちもいますけど、はまった方が面白いですよ!

 生理学は広大な学問です。同じ「生理学」と名打った本でもそれぞれ内容が違います。鍼灸マッサージ用の生理学というのがあって、それがまさに教科書です。鍼灸マッサージに役立つだろうという点を強調している独特の生理学書と言えます。

 

大型書店に行くと鍼灸学校の教科書各科目に沿った一問一答シリーズというのを見かけると思います。教科書を読んだら⇒一問一答の該当ページも見る…というペースを作ると自動的にポイントが絞れていいかも知れません。

鍼灸や按摩指圧は伝統医学と現代医学の両側面があり、多くの流派に分かれている特徴があります。伝統医学には経絡治療・杉山流・中医学・古典を鋭く豪胆に解釈したVAMFITなどが、現代医学ではトリガーポイント治療・パルス器による治療・筋肉や関節を主な対象とするスポーツ鍼灸など様々な流儀があります。誰でもいずれかの方面に進むことになるわけですが、これこそが鍼灸師として最も楽しく重要な分岐点となります。花田ではいくつかの主だった流派の基本を経験できるように授業がプログラムされています。しかし、どの流派を選ぶにせよ先述の4科目は基礎知識として必要ですので、肌に合わない科目でも興味を持ち楽しみながら学んでほしいと思います。特にATを目指す人やスポーツ関係の人は科学的な志向が強く、東洋医学に見られる科学的には証明しきれないけれどもやってみると確かな実効性のある、経験医学的な側面を嫌う傾向があるようですが、解剖生理学だけの治療では早々に限界が来ると言われていますし、「この授業つまらないからイヤなんだよね…」なんてことになると時間とお金と労力の半分をドブに捨てるようなものですね。西洋医学の治療を受け続けてきたのに結果が出ず東洋医学に希望を見出す人が多くいるのも事実です。逆に東洋医学一辺倒になると解剖・生理を抜きにして治療することになり現代では通用しないでしょう。

先日テレビで読売ジャイアンツの坂本勇人選手がスイング調整するシーンが映ったのですが、坂本選手はとなりにいる鍼灸師のトレーナーさんに「頭に鍼もらえますか?」と言って、頭頂の百会穴に置鍼してもらい、頭のてっぺんに鍼を立てた状態で素振りを繰り返し「うん…」っと頷いておられました。おそらく体軸の調整だと思うのですが、プロの中でも一流の選手ですから頭に打った鍼の気を下腹の丹田~足元まで感じとることができるのでしょう、これを軸に鋭く安定したパワーのある打撃に仕上げていくものと思われます。東洋医学とスポーツ科学の融合ですね。

伝統の知恵と技をベースに置きながらも現代医学で補強して鍼灸マッサージも進歩し続けているわけです。つまり、実技も含めた全教科は立体的につながっているものなのだと考えて勉強すればすべての科目を楽しめて、鍼灸あん摩マッサージ指圧治療の全体像もすぐに見えてくると思うのです。花田で学んだものに自信をもって卒業の日を迎えることにもなるでしょう。大きく構えて東西両医学をつなぎ全教科を楽しみながら学ぶことをお勧めしておきます。

 

◎ここからしばらくは少し凝った話になりますが知っていると役に立つかも知れませんので、できれば飛ばさずに読んでみてください。初心者には難しいところがあるでしょうけれども、花田で学ぶ中で疑問を持つ人が多いのでは?と思われる点も含めて書いてあるのでザッと読んでそれとなく掴んでおき、入学してからの参考にする手もあろうかと思います。

 

東洋医学の世界に学ぶと必ず直面する、ちょっと理解に苦しむけれどもとっても魅力的で存在感のある主人公が「気」です。天地万物を形作る素材であり、その天地万物を動かす原動力でもあり、人においてはその心身を作り上げ活動させる根本的な元素とされるのですが、その実体が分かりにくいため、何のことか?と初学者を悩ませるわけです。

例えば気功を練習するとこの気が全身に充実してきて手元から溢れ出し、モワ~っとしたもの(個人の気質の違いからフワっとくる熱感・磁石が押し合う反発力・コッテリした重量感・ジンジンする感じなど、気の感触にはいくつかの種類がある)を実際に体感することになるのですが、鍼や按摩指圧治療でも患者さんの体から生ずるこの独特な「気」を感知しながら、同時に施術者からも手先や鍼先を通じて「気」を送り込みつつ施術することが重要視されています。気の分かりやすい効能の一例としてですが、気が出てモワ~っとした状態の手のひらを、痛む腰や膝へ静かに乗せ心を鎮めていると、ずいぶんと症状が軽減することがあります。恐らくは気が血流を促し温め痛みの物質を除去する効果に加えて、優しく穏やかな意識が乗った気そのものに人の心身をダイレクトに癒す力があると考えられます。大まかにとらえれば気の治療を通じて患者・施術者がともに穏やかな心持ちに至る時には確かな効果が現れると言えます。

また自然界の気のパワーを体にギュッと濃縮させる補気術という気功法があるのですが、特に体調が悪くてチカラが出ないような時にこれが決まると全身の筋力が明らかに強まり驚くほど体が軽くなって、気が実質的なエネルギーを含むことが理解できます。生来「虚」の体質で何かにつけヘナヘナと力が抜けて自体重を支えるのもしんどくなるようなことがある人(私自身が子供の頃からそんな体質でした)がこれを体得すると体の芯からフツフツと力が湧きあがり、全身の筋肉にビーン!と力が満ち溢れ、意識が清明になり、そしてこれまでできなかったことが可能になったりして自分の体を愛おしく思えるようになります。即効性があり、食養生や休養や栄養ドリンクやお酒の滋養などよりハッキリ強い効果が出て持続性もある。東洋医学でよく使われる「体質改善」というキーワードも補気術ならお話で終わらず実現できるし、スポーツにも応用できるでしょう。東洋医学の治効は一般にマイルドなものが多いのですが補気術では本人がハッキリと体感できるレベルの効果が得られます。どうやらこのあたりに気の真価が隠れていると言えそうです。

東洋医学には漢方薬・薬膳・鍼・灸・按摩・気功の各手法がありますが、私の経験から見てこの中で気を体感として重視するのは第一に気功で、その次に鍼、次いで按摩指圧です。漢方薬・薬膳・灸では原材料の生薬自体が含む天地自然界の気を間接的に人体へ取り込むことでその治効を得るものと言えるでしょう。東洋医学では多角的に気を論じており、五臓六腑を巡るのも気、病を起こし治すのも気、精神活動も気、経絡経穴を流れ栄養を与えるのも気、人体の作りの大元も気、とされているので、ご自身の手に気を実際に体感しておくことはこの医学を学ぶ上で大きな道標になります。気は東洋医学の主力であり「気なんてあるわけないよ」などと思い込んでいる人は大きな勘違いをしています。実感できるだけでなく場合によっては視認すらできるほどのエネルギー(ドライアイスのスチーム状に見える場合や半透明に体の周りをゆらゆら揺らめくのが見える場合、また青白い光や赤や金色の輝きのように見えることもあり、薄暗いところで視覚にとらえられるケースが多い。私の場合ですが「プレデター」という映画はご存じでしょうか?あの異星人が姿を隠すモードの時に体の周囲にモヤモヤと映る空気の揺らぎ。あの感じに近いものが見えることが比較的多いです。)であり、更に言えば私のような気功師が自身の体から相手に大量の気を送り、邪気を追い出し、真気を満たす、非常に高度で特殊な気功と言える

〖外気功〗

という術を受けた人は、体が熱くなったり、ボワンボワンした圧力を感じたり、全身がグラグラ揺られたり、引っ張られたり、押されたり、腕が浮き上がったり、発光を見たり、と…感性によって様々な気の不思議体験をすることになります。外気功を受けた人の体で特に気が通りやすい身体部位に強い反応が出ます。私は相手の体に触れることなく物理的な現象を実際に起こして気の存在を証明することができます。「確かに、体が勝手にゆらゆら揺られて、腕が浮き上がって、そのうち体が軽くなって気分も穏やかになりました。これが気の力なのですか?私は気の存在なんて信じてなかった。こんな事が本当に起こるなんて…あなたぐらいの体格(175cm/62kgほどです)でなぜこんなことができるのか?常識では考えられない!人生観が変わりました…」と言って驚く人もいる。花田で学ぶ中でも「あれ?なにこれ…」っと、不思議なものを見たり感じたりする人も出てくるでしょう。それは間違いなく「気」ですが、その人は気を視覚化したり体感する能力が他者より少し強いだけであって怖いものでもなんでもありません。「教科書には書いてないけど、こんな風に気を感じるパターンもあるわけか」くらいに思ってください。診断・治療の参考にして活かせばいい。世の中には科学で証明できない現象が実際にあるのです。EBM(Evidence Based Medicine 科学的論拠に基づく医療)は優れた思考ですが、これに固執しすぎて頭デッカチになると経験医学である漢方の実力は十分に発揮できません。気の存在を心と体で純粋に感じながら東洋医学を学びたいものです。

 

しかしそうは言われてもお話だけでは気の存在を信じられない人もいるでしょう…

 

ではここで「気」を実際に体感してみましょう。

 

興味がある人は以下に私が言うとおりやってみてください。気感は掴みきるまで微妙な存在なので「そんなものあるわけない」みたいな態度の人は気をわからずに終わることが多く当然のこととして先はありません。「本当にあるなら感じてみたい!」っと好奇心をもって純粋に臨む人は得るものが圧倒的に多いと長年の気功指導経験から感じています。わずかな気感がのちのち大きく育つからです。気に対して否定的な考えの人もせっかくの機会ですから好奇心をもって楽しまれてはいかがでしょうか?

 

 〖気功術 基本〗
・両脚肩幅でリラックスして立ちます。両腕をやや広げておろし息を呼きながら全身をゆるめうつむき沈みます。そしてゆったり息を吸いながら体と意識を上空へ昇らせつつ、足元~膝~胴体~首~肩~肘~手首~掌~指先の順で、そして更に各指先から1mくらいの軽い糸を伸ばす意識とともにフワリと浮き上がらせていきます。糸の末端まで浮き上がらせるイメージが大切です。胸が張り背筋が反って踵が浮き膝が伸びたゆるいバンザイのような形になります。そして末端の掌と指先から気の糸が浮き上がりカーブを描きながらゆったりと下り方向へターンするころに体全体をゆるめつつ息を呼き沈んでいきます。この下りも同じく足元~膝~胴体~首~肩~肘~手首~掌~指先~気の糸の順で引きながら膝をゆるめ背筋も丸め首も巻き込みなめらかに大地へ降りていき、続いて昇りへ方向転換しながら気の糸の末端までを大地をネットリとなでるようにターンしたら吸気に転じて空へ舞いあがっていきます。フワリと浮くときに掌や脇下にモワ~っとした陽気の感触がでてきて、大地に塗りつけるときにはネットリとした陰の気のねばりがでてきたらいよいよ気が発功してきていますから、この気感(得気=とっき)を楽しみながら無駄な力を抜いていき、快適な動作へ調整しつつ繰り返し天地を行き来しましょう。次第にコツがつかめてくれば深い安堵感と瞑想感と大きな気のうねりが感じられるようになるでしょう。ポイントとしては…

・動作に沿った普通の深呼吸で行ってください。体が反る時は吸気で、体が丸くなる時は呼気。それだけです。ペースは自由。〇〇式呼吸法など意図的な呼吸法をする人ほど姿勢を小さく固めてしまい気が分からないケースが多かったと記憶していますので不自然なことはやめておきましょう。呼吸法だけで気を大きく増幅することはできません。また、「気は、引き伸ばすことで大きく育つもの。先頭で膨らますのではなく尾を引くように伸ばし伸びた尾で自身をおおきく取り巻くことで総量をかせぐもの」という大原則を知っておかないと気功の実力を理解することなく、わずかな気感で終わってしまうことが多いと思います。気を題材にした名作漫画にドラゴンボールがありますが、〇〇波!っと叫んで気を押し出すシーンが目立ちますね?カッコいいし絵的には分かりやすいのですが、ごく稀に邪気を強力に打ち払おうとする目的でこれに近い手法を使うことはありますが、気の性質を普通に考えれば押し出し側の気の放出は気を傷め潰し圧迫し縮小させるだけですからやめておきましょう。漫画の世界の話ですから本当の気功とは別に扱った方がいいです。

・動作と意識は全体として大きくとり全身で流線形を描き、自然ゆたかな空と大地を思い浮かべながらするといいでしょう。気功の相手は天地自然界なのだと思えば簡単な話です。

・腕だけで振るのではなく、膝や背骨や首も柔らかくゆるめ、昇りも下りも動きは膝・胴体から、全身を波打たせるようにして部分的な動作にならないよう体全体を大きく使って上下させるのがコツです。

・特に上空ターン時に気が乗りやすいので、ここで少し速度を落として気の糸をフワリと浮かし引きながら流線形の滑らかなカーブをかけると気の浮力と伸びが感じられやすいと思います。

・気を見ることに興味のある人は薄暗いところでこの功法をしながら、気を感じはじめたところで薄目をあけて、フワーっとした気が感じられるあたりを眺めてみましょう。色々な見え方がありますが、指先からスーッと光のスジのような気が伸びるのが見えたりその周囲がモヤモヤぼんやり発光しているケースが多いかと思います。

 

 …いかがですか?いちどやってダメでも継続は力、興味があれば何回もやってみましょう。私自身、最初に気功をはじめた時は気感がすぐには出てきませんでしたが、とても興味があったのでしつこくやっているうちにモワーっとした気が実際に手に感じられるようになりました。感じだすとグングン気感が発達していきます。

一人でやってみて気が分からなかった人は、複数の人と一緒にやってみましょう。私がここに書いたものを正しく理解して練功すれば10人のうち平均で6~7人くらいはその場で気が分かります。この中で「気が分かった!」と興奮して嬉しそうに気の感触を具体的に語る人が出てきますが、この人は本当のことを言ってます。疑うのはレベルの低いこと。互いにコツを教え合うのが上策です。最初はわからなくても練功を繰り返せば気を感じる人の割合は確実に増えていきます。気を体感できた人にとっては、よもや気の有る無しなどという低次元の話ではなく「これをいかにして強化し、鍼灸マッサージ治療術に応用すべきか?」という具体的な段階に移行することになります。本物の「気の医学」への第一歩です。
 とても簡単な功法ですが、これが仕上がってくると高度な気功法にまで高めることもできます。あとで述べる経絡基本姿勢にあわせてこれを行えば周天功にまで昇華させることすらできるものですし、更にこの気功で得た手の気感を杉山真伝流などの鍼術にあわせて行えば補法や瀉法などの気の治療を実際に施術できるようにもなってきます。同じくあとで述べる井穴指圧に合わせれば相手の気を自在にコントロールすることにもつながります。生薬を煎じつつこの技を合わせれば優れた漢方薬ができます。気感がシャープな人ならこれをやっただけで気の世界への足掛かりになるでしょうし、そこまでいかない人でも何かありそうかな…と感じられたら十分だと思います。

 気を見た人はまさかと驚きゾッとすることもあろうかと思いますが、それほど特殊なことではありません。人体が発する気は別の言葉ではオーラと同義で、ヨガではプラーナと呼ばれ一般的に認められているエネルギー現象です。気をみることができる人はオーラ視能力のある素晴らしい才能の持ち主なのです。東洋医学で扱う「気」は元気のモト・生命エネルギーですから功法で気を醸成しながら視覚にとらえる練習をすれば治療に役立つかもしれません。ただし相手によっては変に思われてしまうことがありますからこのあたりの話は気を付けて扱ったほうが無難でしょう。気やオーラなどあるわけないと考える人が多いですし、見えたものとその人の予後はイコールではなく、あくまでその時の身心が放つものが気=オーラとして見えているものであり、何かを断定したり拡大解釈するなどは誤解のもとです。

 なお、気感が鋭い人や気量の多い人がこの功法をすると手先や頭部に気が残って重たくなる(気の偏差と表現します)ことがありますので終わりには抜気(ばっき、気を下腹部の丹田に降ろすこと)をしておきましょう。具体的には…

・両腕と体とカカトと意識を上空へ軽く浮かしておいて、軽い反動をつけてその姿勢のままカカトからトン!と体と意識を下腹部の丹田へゆるめ落とします。手はフッと力を抜くだけで下に降ろさないでください。

…これをすれば頭や手先に残っていた気溜まりがスッと抜けるはずです。
 意識と気血は一緒に動きますので血と意識が下がれば気も引かれて降りるわけです。抜けが浅いときは落とした時に下腹部丹田方向へズーン…と、体と意識を長めに深く沈めればスッキリと抜気できて、丹田のエネルギーを充足させることにもつながります。

 

ここに書いた気功は漢方的にも運動学的にも比較的ニュートラルでクセも無く、気を安全・具体的・簡単に体感できるものであり、進化させれば高度な気功法に仕上げることもできます。分かりやすい反面、敢えて欠点を言えば、陰・下半身の気量をあまり稼げない功法なので莫大に大きな気の総量を得るのは難しいかもしれません。これをやって割とうまくいき、気功に興味が出た人はその経験をベースにしてどちらかの気功を習ってみるのも良いかと思います。あとで述べる周天功の基礎にもなります。気功には色々な流派がありますから、私がここに書いたものと比較して流儀を選ぶ手もあるでしょう。なにせ20年以上の気功指導員ですから気に関するあれこれに関しては多少の実績がありますので参考になさっていいのかもしれません。

 

上述した経絡経穴学においても気を知るならば「あぁ…あのモワ~っとした感触の一種のエネルギーとも呼べる気が経絡に乗って流れて血液や水や栄養や活力を筋骨五臓六腑にも運んでるということなのだろうな。生命力そのものか。人体から気が発するなら動物にも植物にも、延いては海にも山にも、天地自然界にはあのモワ~っとする気は莫大に存在するんだろう。下腹部の丹田から人の気は発して内側から経絡に乗り、天地自然界の気は外側からツボを通じて経絡に流入し、そして両者が合流して人体を巡り心身を活気づける。心臓は小さな太陽、肺は山雲、肝は森、胃は土、腎は海や川だって?ふ~ん…なるほど、天地と人とではサイズは違うけれど同じ素材で出来ていて、互いに交流してるってわけだ。五臓六腑は小さな田園風景そのものということ。少し大きい公園に行くと案内所があってその公園のミニチュアと言うか、ジオラマ模型が飾ってあって小山や小川に花壇に芝生など公園全体が美しく正しい縮尺で立体的に再現されてる。これと同じように考えればいいわけだ。自分の体内にある五臓六腑を生々しい臓腑として考えず、小さく美しい田園風景がそのまんま収まっていて、雨が降ったり風が吹いたり春夏秋冬が訪れたりしているのをイメージすれば漢方は簡単に理解できる。もっと言えば広がる風景全体をうっすらと包み自身と向かい合う半透明の巨人の姿(もののけ姫のシシ神のような?)を思い浮かべてもいいだろう。自分に経絡があるのと同じくシシ神=天地自然界にも経絡があってツボを通じて人間と交流してる。水が⇒土に⇒森に吸い上げられ⇒雲となって山にのぼり⇒そして太陽のぬくもりを受け⇒恵みの雨水を降らせ自然界に潤いを与えつつ海や川となり⇒それがまた土へ⇒森へ⇒山へ…と天地陰陽の気のパワーが水を媒体として悠久の巡りを為すのと同じように、人体では元気のモトと言える腎水が⇒胃脾で食物の陰気と出会い⇒肝の伸び広がる勢いと合流し⇒肺で大気中の陽気とも混ざり⇒心で完成した血を拍動によってすみずみまで送り広げ全身に熱や活力や栄養を与え⇒余った濁気は大腸と膀胱を通じて大地に帰した上で⇒また腎水に元気を集め⇒胃脾⇒肝…(これらは下に述べる相侮の順です)と人体も気血水が巡ってこその健康な体であり、巡りが悪いところをほぐし過不足を調整するのが東洋医学。天地と人は大自然と小自然の関係で気によって呼応し互いに交流するもの。それが途切れると人は調子を崩す…うーん、確かにウチら人間だけが動物でありながら衣食住から仕事も遊びもお薬も、すべてが人工物の中にあって自然界と分断されてるよな。普通じゃありえないような病気も出てくる。だからこそ自然界と寄り添う東洋医学が現代になって見直されてるわけだな。例えば土の気がマッチする胃が弱くて消化吸収がままならず虚弱ならば、土壌豊かな田園の中で気功をしたりウォーキングを楽しむことで土の気を導引するのが良いし、その土の気をたくさん含む食材や生薬(例えば山芋など 生薬名では山薬)を摂って養生するのもいい。そしてもちろん、胃の気が流れる胃経上にあるツボ(例えば有名な足三里は土経の合土穴と言って特に土の気を胃の腑まで深く届けやすい)を鍼術でほぐし耕し、大地の土の気をモワ~っと送り込んでやれば更に良いということだな?

それとか例えば感染症が流行していてウガイやマスクに手洗いの効果が不十分となれば、漢方としては免疫向上をねらうことになるよな。腎は水のエネルギーである潤い・勢い・流れ・浄化、つまり免疫力を含む生命力そのものを内包するそうな。それなら腎経上の太谿(原穴という主力のツボ)と腎の真後ろにある腎兪(兪穴=気を輸出入するツボ)に鍼をしてパワーを足すか?いや待てよ…腎は腰にあるので寒い時期には冷やしちゃダメとかって話だ。腎は水経だから冷えると凍ってしまう?あ、そうか!ここは腎の陽気(腎陽)が欲しいから、灸の温熱の方が合うわけね?ならば加えて火性の心経のツボ(原穴の神門など)も併用するともっといいかな。

これら処置のあとは仕上げに気詰まりや気の過不足のあるツボを見つけてやはり鍼でモワ~っと気を立ち昇らせておいて、症状に応じて気を足したり(補気)引いたり(瀉気)流したり(行気)で全身を整えたら完了!

ここに薬膳による食養生を加えるなら、補腎の黒い食材だって?あぁ、水性の海藻や魚は黒っぽいのが多いからか。それに海水も沖へ出ると濃い藍色で黒っぽく見えるし。お?でも海藻は体を冷やすから補陽の生姜を加えなさいって。それと黒胡麻あたりも良くて、滋養が強く平性で体を冷やさないのか。よし、ならば生姜入りの熱い海鮮鍋料理を胡麻ダレでいただけば最高の免疫アップ薬膳になりそうだ!ん?ビールは涼性で冷えるからダメ?飲むなら温性の焼酎か日本酒・ワインにしろだって。じゃ、焼酎お湯割りでいきますか。

…ふーんなるほどねぇ、こういったことがあって天地自然界⇔ツボ⇔外経⇔内経⇔ねらう臓腑へ、という流れへの理解と、東洋医学の世界観が大切だって言うわけか!…そう言えば武藤先生からもらった内経図のプリントを見ると例えば肝経(森)の途中に肺(山雲)や胃(土)や膀胱(海川)や小腸(マグマ地熱)のツボが合流していてワケが分からなくなったけど、あぁそうか、森や動植物は生き物なんだから土の養分に山や水や地熱の恵みも分けてもらわなきゃ生きていけないってことね?肝経が陰部を巡るのは生殖器が生物の命をつなぐからだ。木火土金水は経絡経穴でも縦横無尽に交流する。そっか、つまり人体は小さな自然界、人間は小自然そのものだってわけなのか!

独特な世界観だよなぁ…でも気を分かってると東洋医学もシンプルで具体的でスゴくわかりやすいよ。現代生理学とは相入れないところもあるけど大切なのは実際に人を治せてるってことだ。だから何千年経っても世の中から消えない。天人地か…うん、壮大なスケール感!ダイナミックでなかなか面白いじゃないか。俺は好きだな!」

 

気を知っていればこんな感じでワクワクしながら理解を深めつつスムーズに東洋医学の世界へ入れると思うのです。東洋医学は広大な学問であり「三年かけて何を勉強してきたのか自分でもよく分からないや…」なんてことにならないように「これからの治療家人生に向けての道しるべをしっかり示してくれた素晴らしい三年間だった!」となるようガップリ四つに組んでいこう!という意味もあります。 

 

 

さて、気が巡るルートには2種類あるものと予め分けて考えておくと混乱しないと思います。

 

 ①経絡に沿って人体と自然界を交流させながらぐるんぐるんと大規模に気が回転するルート。これは経絡経穴学で六臓六腑を巡る12経と呼ばれ、肺経⇒大腸経⇒胃経⇒脾経⇒心経⇒小腸経⇒膀胱経⇒腎経⇒心包経⇒三焦経⇒胆経⇒肝経⇒そしてまた肺経へ…と連なるものです。正中線上にあって左右の12経バランスを整えつつ先導する任脈・督脈を合わせて14経と呼ぶこともあります。全体像としては、(肺・大腸)は金属を含む岩山で太古の地球の骨格と考えます⇒これが永い年月を経て土(胃・脾)を生じ⇒太陽とマグマの熱(心火・小腸丹田)を浴びて⇒ここに水(膀胱・腎)が潤いと流れを与え⇒いよいよ暖流(心包・三焦)が生じ⇒ついに森や草花に昆虫など生物=木(胆・肝)を生み出し⇒この生き物たちが岩山を豊かにいろどり⇒豊かな土壌を育み⇒陽射しを浴び…っと人間を含む自然界が力強く美しく、未来永劫すくすくと育ち繁栄する順方向の気の流れを示します。鍼灸学校で覚えるツボの順番とも重なります。ツボの勉強はまず順序と漢字やその意味と場所を暗記するわけですが、これだけだと中身が薄くてつまらないですよね。例えば少陰心経と太陽小腸経は自然界ではそれぞれ太陽とマグマに相当する火性なのにツボは極泉・少海とか少沢・前谷・後谿・陽谷・小海といった水に関わる名前のものが目立ちます。なぜでしょう?これは上述の天地生命繁栄の順を見れば分かる通り、次に連なる太陽膀胱経と少陰腎経という水性の経絡と混ざり合っているからです。火と水の相乗効果で次の暖流(心包・三焦)が生まれいよいよ生命誕生(胆・肝)が近づくわけで、火経にも水のツボが入り込んでいる理由なのです。水経の太陽膀胱経のケースだと背中に肺兪・心兪・肝兪…といったその奥にある内臓の名前のついたツボがずらりと並んでいて、あぁそこに効くんだろうな、と取り敢えずは分かるのですが、天地と人の関係では膀胱の機能は「降りそそぐ雨を受けて養分を運びつつ勢いよく流れ下る川=飲んだ水を受けて五臓六腑を滋養し流水の運動エネルギーを与えながら体内の老廃物を洗い流すもの」なのです。水とその活動は「潤い・勢い・流れ・浄化」つまり「生命力の根源」なのだということも知っておいた方が良いでしょう。逆に「乾き,弱まり,滞り,汚濁する」なら生きる力を失います。木火土金水の中でその形を雨や雪に水蒸気にと変化させながら天地を自由に駆け巡るのは水であり、山を土を地中を潤し動かし動植物を育みます。水そのものが莫大なパワーを持つ。五臓六腑は小自然ですから水を必要とするということ。だから膀胱経はツボを通じて筋骨五臓六腑すべてに水の恵みを与えようとするわけです。そしてそれらを経て集積してきた生命のエキスは次の少陰腎経が受けつぎ腎気・腎精として蓄積し、あまった濁気は尿として大地に返され肥やしとなります。東洋医学では「腎気」「腎水」「腎精」「腎陽」というキーワードがよく出てきますが、このあたりにその根拠があるのです。漢方ではホルモン分泌などを担う内分泌系の機能を「腎」と呼ぶことがありますが、人体の「潤いと勢いと流れと浄化」をコントロールするのですから、腎はまさに内分泌そのものとも言えるでしょう。生理学から見ても腎臓は血液を濾過してアンモニアなどの老廃物を尿へ排出しタンパク質などの有用なものは再吸収し良質な体液(腎精)をつくり心臓へ昇らせます。また腎臓からはレニン(血圧調整)、エリスロポエチン(造血)、活性型ビタミンD(造骨)が、そして副腎からはステロイドホルモン(血圧・血糖値・水分量・塩分量・免疫力・炎症の強さ・ストレスへの抵抗力、等の生きる上での必須条件を調節)が分泌され体内環境を常にちょうど良い一定の状態に保つことを制御していますので、漢方の腎と生理学の腎はおよそ合致することが分かります。

 水のことを書いたのでせっかくなので言いますと、肺・大腸は自然界では山・麓(骨格)ですが大腸経のツボには陽谿温溜・曲池など水に関わるものがあり肺経にも水との関わりを示す雲門・魚際などがあります。山には雲や小川に滝がつきものであるのと同じく、大腸の排便と肺の呼吸には常に水っけが関わりますね?五行色体表では腎=水=骨となっているものと腎=水=骨髄となってるものがありますが正しいのは後者です。骨自体は肺・大腸の由来であり、骨の中に収まり水液からなる骨髄が腎由来と考えるのが基本だからです。頭蓋骨に収まり水液からなる脳髄も、歯の中にある歯髄も腎由来です。少し考えを巡らせば肺=金(山)=骨+皮毛(山肌を意味します。頭部や背骨・手背・足背・膝・スネ・踵・くるぶし等、骨が浮きだしその上に皮膚と体毛が直接乗っている部位のことで例えるなら富山県・剣岳の切り立った尾根でしょうか。他の部分は骨の上に肌肉=脂肪筋肉=土が乗っていて、その上に皮毛=山肌が被さっている神奈川県・丹沢など普通の山の様相です。土は山の途中までは登れるけれど頂上まではなかなか昇れません。それに森や草花(肝木の筋腱靭帯)も頂上まではそうそう到達できませんね?まとめると12経のうち…胆・肝⇒肺・大腸⇒胃・脾…の部分を言ってるのはお分かりでしょうか。肺は山雲なので高い位置にありますでしょ?)となるわけです。

東洋医学概論で「魂魄=こんぱく=肝・肺」というのを習うと思います。鬼は霊的なものを示します。云う鬼(魂)は呼・怒・語など怒りや興奮をあらわにする鬼、つまり肝や筋腱にある霊で死後は形が無くなり天に昇ります。白い鬼(魄)は肺・白金・金山・山雲・白い鉱物質=白骨にいる鬼で、死後も大地岩山に魄気を込めて地縛霊として残ります。合わせて森山。生き物とその生きる場所です。春は植物と一緒に地中の邪気が湧き出すので立春前の節分には鬼を倒す風習があります。この木(森)と金(山)を除けば火・水・土…つまり森山を生かすための熱や潤いに栄養源となるのです。

自然豊かな山を流れ下った水流には枯木に枯草、生き物の糞尿や屍、ミネラルなどのエキスが豊富に含まれこれを麓で受け入れる土(胃脾)を肥しとなって豊かに滋養することになります。これらの営みを「水道通調」と呼びます。水そのものは腎と膀胱が司るのですが肺・大腸にもからむものであり、例えば乾いた咳(五動・五病)が出て便も乾燥(五悪)し髪(五華)がパサパサで骨量(五主)が減って体が曲がりボーっとして気魄・志(五神)も減退している…となると腎水そのものが枯渇し山に昇ることもなく水の働き、つまり潤い・勢い・流れ・浄化が弱まり心も体も枯れ果てて生命力が衰えた状態「肺腎陰虚の証」と見立てます。鍼灸按摩に漢方薬・薬膳・気功まで合わせたしっかりした漢方治療が必要になる厳しい病態です。

 

 ツボの名前とその理由を少し意識して学ぶのは有意義ですし、勉強がある程度進んだ時にあらためて経絡図全体を眺めた時にこの天地人全体像の関係を把握しやすくなるとも思うのです。

 経絡順方向は東洋医学に於けるエネルギー循環の本流であり、これを力づける鍼や按摩や気功術は人体の根本的な自然治癒力・生命力を高めることになります。後で述べますがこのルートに気を回転させる気功を周天功と呼び、ちゃんと分かった上でこの功法をかければ高度な気感の中で、東洋医学の世界観をこれ一つで心と体の両面から直接理解することができます。

 

 

ところでこの経絡を学ぶ中で学生の皆さんが必ず疑問に思うのが…

 

  (手の) (足の)

陽明 大腸経 胃経 陽気が強い(陽気度3)

太陽 小腸経 膀胱経        (陽気度2)

少陽 三焦経 胆経         (陽気度1)

                                                 ↕

厥陰 心包経 肝経      (陰気度1)

少陰 心経  腎経      (陰気度2)      

太陰 肺経  脾経 陰気が強い(陰気度3)

 

…この経絡の陰陽です。まず先に知っておくべきなのは六腑が陽で六臓が陰という点です。「月」は肉月で人体を表します。「府」は「人や物が集まり通過するところ」という意味があって上(陽)から流れてきた飲食物などが流れ下る中空の器官、つまり胃とか腸を指し、六つで六腑です。「蔵」は文字通り貯蔵庫であり「地(陰)から受け取った素材を内部にズッシリ蔵する六つの臓」つまり肝や腎であり共通して貯蔵した材料を上方へ運ぶ特長があります。日差し(陽)を浴びながら水・養分(陰)を吸い上げる植物の姿を思えば分かりやすいでしょう。ところが何が陰と陽の度合いを決めるのか?については根拠がよく分からないから名前で覚えてしまえばいいや!となるのですが、実はこの陰陽の強弱は臓腑自体の位置や機能とは関係がなく、経絡の流れの中でも特に重要なツボがずらりとならぶ肘から先と膝から先の部分でそれぞれの流注ルートが太陽の陽気、つまり日光を浴びる度合いを示しているのです。

経絡は人の体にだけ存在するのではなく、どの動物にも共通して流れる気のエネルギー循環路です。現代の人の形は太古の昔に魚類が進化して胸ビレや尻ビレが手足になった両生類や爬虫類という元来の四足生物のデザインからは大きく逸脱した姿になっていて、筋肉や骨や関節が伸びたり捻じれたり角度をつけたりと、かなりの無理を強いてこの二足歩行を維持しています。例えば二足で立つため大胸筋や大腿骨頭周辺の靭帯は90度もねじれているし、背骨は縦の衝撃吸収性を得るためS字カーブを無理やり作って配置されています。筋肉の起始や停止部位は太古のデザインから変更できないようになっているのです。なのに人間の生活スタイルを優先して進化しようとしたからこのような無茶な形態変化によって人間独特の障害(体重の半分以上を受けながら歩行の衝撃をも受けることで生じる腰痛や変形性関節症、頭部が高すぎて脳血流不足で起こる認知症など)を被ることになったのです。しかし、この経絡だけは、太古・元来のルートから少しも外れることなく全身を流れ気を巡らせその生命を守り自然界のエネルギーとすら繋ごうとしてくれています。

 ではここで経絡図を見ながら経絡基本姿勢、つまり両手両足を曲げて開いたトカゲ(トカゲは人間を含む四つ足の動物の元祖でその動作は身体構造とその機能に対して根本的に正しく、それを行えば全細胞が喜び本来の機能を取り戻し気が湧きだし潜在する能力と健康を獲得しうる⇒気功では蜥蜴の型を練功する。実際トカゲの動きを真似るだけで全身に大量の気が溢れることには驚かされる)の姿をイメージで真似てみてください。そして日光の陽気と地球の陰気を経絡沿いにまっすぐ受け取るべく、うつ伏せになり林の中で東の方角を見ながら佇んでみましょう。今ご自身を真上から眺めるとすべての陽経が見えますね?逆に真下からは陰経が見えるはずです。太陽は東から昇り西に沈み、地球を一周して戻ってきます。ちょうど上に書いた経絡順方向に太陽の日差しが巡ることになるのですが、東から朝日が勢いを増しながら昇る時、それを正面から強く浴びるルートは手足の陽明経(陽気度3)であることが分かります。対になる手足の太陰経(陰気度3)は真反対の影になりますから同じ量の地気を大地から吸い上げ逆に陰気がもっとも強くなります。次に太陽が昇り切るときトカゲを含む大抵の動物は林の中に身を隠していますから陽射しはさえぎられ薄暗い林に空から薄日が手足の少陽経(陽気度1)に注ぐ程度で、反対にある手足の厥陰経(陰気度1)も軽く大地の気を受けやや陰寄りとなります。続いて日が沈み弱まりゆく西日を手足の太陽経(陽気度2)が真うしろから受けるときは、反対側にある手足の少陰経(陰気度2)が同じ量の地球の気を受けます。すべての生物がこの太陽と地球のエネルギーを何億年も受け続けてきたわけですから、この経絡・陰陽の性質はすべての生物に浸み込み受け継がれています。人間は小さな自然界であり、ツボを通じて大自然と直結しているのです。

 この経絡の陰陽度を実際の治療にどう活かすか?については割とシンプルです。各経絡が陰か陽の性質を持っているわけですから、弱っていたら足してあげればいいし強すぎていれば引いてあげれば良いのです。例えば大腸(陽明大腸経・陽気度3)が調子を崩し便秘(陽気が強すぎ乾いた便)か下痢(陽気が足らず大腸の水道が多すぎる)だとしましょう。下の②で述べる井穴指圧を使う場合、人差し指先端の商陽穴からこの井穴指圧術に強い陰か軽い陽の意識を乗せて大腸まで送り込むことになります。もともと陽明経ですから便秘を治す場合はしっかりと反対の陰の意識(湿らせ下し洗い流す、滝川)を乗せた強めの指圧をかけます。下痢の時は本来の陽明側へ少し戻せばいいので、陽(温め軽やかに浮き上がる、小春日和)に向かう意識を乗せた軽やかで穏やかな指圧をかければ良いことになります。手足の感覚は敏感で、触れる人の気持ちがそれとなくわかりますよね?同じように各指にも気質の個性があって、その中で人差し指は相手に向けてピシっと指差すときに使う、明るく外向きの強い陽明の気が流れる経絡の先端なわけです。

  ちょっとした心配事や試験前やらでオナカがキューっとなった経験は誰にもありますよね?こんな時に好きな人、信頼できる人に人差し指を優しく心強く包んでもらうと元来が決然とした意識の乗る指なので安堵しオナカも穏やかになります。指先には神経が集中しています。自律神経と意識・感覚・気感の関わりによって大きな生理学的変化が起こるわけで、こんな経験の集大成が東洋医学なのだと考えるとわかりやすいかもしれません。実際に効くからこそ千年経っても世の中から消えず、認められ、実用されているのが東洋医学なのです。もちろん自然療法ですから効きが不十分なこともありますので、例えば便秘症なら食養生(化痰性の昆布・若布・海苔などで食物繊維を摂り、消食性の椎茸を食し、滋陰性の牛乳を飲み便を緩くする)や腹部を揉む気功療法(腹按功と呼びオナカを時計回りに揉みこみ、また、腹部~胸部を引き緩めるを繰り返し腸蠕動を促進する)などを日々の生活に織り込んでみると効果が高まります。

  せっかくなので三焦と心包についても少し触れておきます。これも一見わかりにくいところですが、天地と人をつないで考えれば実に明快です。上に書いたとおり経絡流注は山雲(金)⇒土⇒火⇒水⇒暖流(相火)⇒木⇒山雲⇒土…と、自然界成長方向に進みます。三焦と心包はともに「暖流」に当たります。東洋医学では「相火(そうか。心火・小腸丹田の相棒・相方という意味)」とも言って、火⇒水の流れを受け、炎の熱に水の潤い・勢い・流れ・浄化の力を帯びた、生命誕生の源とも呼べる「臓腑を包み守り温めながら潤い・勢い・流れと浄化を与える力を内包するもの」もっと分かりやすい言葉に言い換えれば「暖流」となるわけです。

三焦の「焦」は「焦げ」つまり熱源を示すと同時に「礁」つまり暖かい海水に浸かる珊瑚礁のごとく臓腑が暖流に浸かる意もあります。上焦は胸(熱源は心火=太陽)、中焦はミゾオチ(熱源は胃熱=自然界では土の発酵熱)、下焦は下腹部(熱源は小腸丹田=マグマ)を指し、合わせて三焦。小自然である六臓六腑全体を包み温めながら流れを与えるのが三焦です。人体においては胸膜と腹膜およびその周囲の内臓脂肪層が該当し主たる熱源は下焦・下っ腹の小腸下丹田=地中マグマです。自然界に置き換えるなら風光明媚な山紫水明の里の全体図と言えます。

 心包は五臓六腑の中枢である心の臓を包み守り潤わせながらその力の存在と高い精神性と心の感動を周囲へ知らしめる臣使の官です。人体では周囲組織と結合し連動する心膜とその周囲の脂肪層が該当し熱源はもちろん心の臓・中丹田。自然界では燃えるように美しい朝焼けに染まる雲海(太陽と山雲が見事に合わさる様であり肺は心に仕える相傅の官)がそれに相当します。

心包は上焦深部に存在しますから、三焦の一部でもあります。つまり三焦は六臓六腑全体の機能と天地自然界全体の営みを結びつける大きな自然観と言えるのです。それゆえ三焦経を主な治療の対象とする流派もあります。井穴指圧で手の中指(心包経・中衝穴)と薬指(三焦経・関衝穴…つまり心包→三焦をつなぐ大規模な衝波が全経を循環させることになる)を同時にゆったり揉むうちに大きな気の流れが生ずることがあり、この状態に入るとほとんどの患者さんは重病でも夢見心地になってウトウトされます。施術者も独特のトランス状態に入り、施術の影響を受けるのは患者さんだけでないことがよくわかります。暖流経には明らかに身心への強い効能があります。

ちなみに丹田の「丹」は赤い炎や仁丹薬を指します。「命の炎を内包し、温性の万能薬を生み出す田畑」が丹田なのです。丹田が充実していれば病邪は育つことができません。風寒湿(ふうかんしつ=冷たく湿った風=病邪を生む自然界の邪気の塊)を追い出すのが丹田の力です。丹田は三ヵ所あってそれぞれの役割が少しずつ異なります。有名な下っ腹の小腸下丹田は地中マグマであり力の丹田。心の臓中丹田はひと回り規模の大きな空に輝く太陽であり精神・ココロの丹田。そして大脳上丹田は更に大規模な恒星集団である天の川大銀河(宇宙)に相当し知性・閃きの丹田です。三丹田の充実は身心運気すべての平定につながると考えます。

           

 ②五臓六腑の間を経絡を介さず気が直接行き来するルート。東洋医学概論での木⇒火⇒土⇒金⇒水や肝⇒心⇒脾⇒肺⇒腎などの相生に相克や相侮など臓腑同志の気のやりとりで、各臓腑が互いに気血水を与えたり引き込んだりしながらバランスを取りつつ心身を維持している機能を東洋療法で調整するものです。似たものに五主(筋・血脈・肌肉・皮毛・骨)や五官(目・舌・口唇・鼻・耳)が気によって五臓六腑と繋がるやり取りなどもあります。上手に活用すると①の本流を支えて治療効果を強めることになります。②を学ぶ中で五行色体表というのが出てきます。怒喜思憂恐とか魂神意魄志や青赤黄白黒などがズラッと並ぶ東洋医学の根幹をなす表です。これを覚えだすとなんだかわけが分からなくなって取り敢えず暗記してしまえ、となるのですが、漢方医学を学ぶ中での五行のど真中は「木・火・土・金・水(もっかどごんすい)」です。この五元素で地球は作られているし、人体も動物も植物も海も山もすべて同じです。学校の授業では、木が燃えて⇒火を生じ、燃えカスから⇒土ができ、土から⇒金属が採取され、金物の器が⇒水を貯め、水が⇒木を育てる…といった風に教わるのですが、これは身近な生活様式に当てはめれば正しいけれど、自然界の営みを反映しておらず他の五行の理解につながりにくいため、やはり木火土金水の活動は原風景から理解すべきでしょう。木は森や草花、火は太陽とマグマ、土は土、金は山雲(金そのものではなく金属を豊富に含む岩山・金山と考えます。また、山は雲や湧水を常に伴います。該当する肺と大腸の作用は常に水分を伴いますよね?これが先述の「通調水道」です)であり、水は海や川と考えると自然界のすべてが完全に連動します。森草花が⇒陽射しと地熱を活かしながら育ち⇒暖められた土の滋養をも活かしながら伸び広がり⇒山々を豊かに彩り包み雲をまとい⇒その山麓から溢れるミネラルと植物のエキスに満ちた清流が川となり海にそそぎ⇒更に森草花が潤い⇒火⇒土⇒金⇒水…と連なるわけです。木火土金水の中で木だけが生き物(人間を含む)を示しますので、この②の五行では木を先頭・中心に置きながら自然界悠久の流れを示しているわけです。①の経絡流注で木が最後に来ていたのは、地球の始まりから人間・生物誕生へと進んでいくプロセスを示しているためです。どちらも肝木・生物・ヒトが主体となることに違いはありません。①は現在から未来へ絶えることなく続く天地人の成長過程を示し、②は木(春・風・肝胆) 火(夏・熱・心小腸/心包三焦) 土(長夏・湿・脾胃) 金(秋・燥・肺大腸) 水(冬・寒・腎膀胱)…そしてまた木(春・風・肝胆)…っと、一年で一周の季節の移り変わりが五臓六腑と経絡にも当てはまることを示しています。①の大きな流れの中で②の季節が同時に巡っている、と考えるとわかりやすいでしょう。(ここでは相火で暖流の心包三焦をいちおう火・熱・夏に入れましたが、これは先述の通りそれぞれの熱源が心臓中丹田と小腸下丹田にあるためです。心包は三焦の一部であり、また三焦は火に水の潤い流れが加わってできる生命誕生の先駆けとも呼べる暖流であり、その全貌は太陽・雲に山水・田畑、地熱に湧き水・温泉・湯けむり…までを網羅する山紫水明の里ですから、木火土金水、春夏長夏秋冬のすべてを含む大きな自然観と見ることもできます)

 勉強するうちに「12経は12ヶ月と重なる」といった話を聞くと思いますが、例えば春は立春(2月初旬)~立夏(5月初旬)の3ヶ月間ですが、この季節は該当する肝胆とその経絡が若々しく華やかな新緑(青春・色・生)に荒っぽい勢い(風)を受けて興奮(怒・語・涙)したり体が突っ張り強張ったり(握・爪)というように、ひとたび発症すると強い病変に至りやすいと言えます。この状態を「肝実証(かんじっしょう)」と呼び肝気が強すぎるため、肝経と胆経を落ち着かせる施術を考えます。肝胆の本質は「疏泄と蔵血」つまり昼間には草木が天地に向かって花や根に葉をグングン広げ伸ばし、夜は逆に全身から血を集め体内を静かに滋養します。この肝胆陰陽バランスを整える施術を「平肝(へいかん)」と言います。ちなみに胆嚢は胆汁を蓄え、脂質の多い食事を受けると分泌され、取り込みにくいけれど栄養豊富な脂肪分の消化吸収を手伝うわけですが、この胆汁を自然界においては植物の樹液や蜜・果汁と考えます。昆虫や動物を呼び集め花粉や種子を撒き広げることで、結果的にその植物のテリトリーを伸ばし広げる、つまり疏泄(そせつ)を支えているわけです。

同じように夏は立夏(5月初旬)~立秋(8月初旬)が該当し特に近年の熱波を浴びて心・小腸の本質(光・こころ・ぬくもり・活力・喜び・主血=血の赤化と脈動)が熱病でダメージを受け精神を病み,喜び騒いだり逆に鬱したり脈動の限度を超え卒倒したり、秋は立秋(8月初旬)~立冬(11月初旬)の燥邪で(気魄・城壁・清潔・宣散・粛降・納気・水と蒸気の出入り口。つまり人体を外邪から強力に守りつつも必要なものは体内深く取り込み不要なものは体外へ散らし飛ばし排除し、同時に全身へ水の潤いを与えつつ清める)という肺大腸の本質が乾き弱まりやすくなり皮膚病や咳嗽に感染症、便の異常を患い、冬は立冬(11月初旬)~立春(2月初旬)の寒邪で腎・膀胱の本質(潤い・勢い・流れ・浄化)が弱まり尿道のトラブルや免疫力低下による諸病発症に椎骨間が冷え潤いをなくすことが原因の重い腰痛・頸椎症も起きやすくなります。五行色体表にある五動や五病がおきたり五神や五主に五華や五官が発症しやすい四季節ですからこれら各3ヶ月、合わせて12ヶ月に該当するそれぞれの臓腑経絡をその性質と季節を考え施術していくわけです。この四季に加えて夏と秋の中間に重なるように「長夏」という季節があって五季になります。本家の中国大陸では夏と秋の間の湿度と気温が高い立秋(8月初旬)の前後を指しますが、日本ではやはり暑くて湿気の多い梅雨(6月から7月)から夏の土用(立秋前の18日間)のことを指します。つまり中国大陸と日本では長夏の季節が前後に少しズレるわけです。でもこのあたり、和漢の両医学として大きくとらえ夏至(6月中旬)から秋分(9月中旬)を他の四季と同じく3ヶ月間の長夏という一つの季節と考えるとクッキリして理解しやすく妥当でしょう。現にこの期間は温暖化の影響もあってか暑くて湿度の高い日が多いですよね?実際の臨床ではこの長夏(脾経・胃経)の3ヶ月間は夏(心経・小腸経/心包経・三焦経)または秋(肺経・大腸経)の調整をベースに置きつつ気象状況を見ながら特に湿邪(脾胃の本質である運化・化成・昇精・統血・造血に受納・腐熟・和降を弱体化させることで、食欲不振や消化不良に血の不足から更に→痩せ・体力低下・血虚精神不安~血は神気を運ぶため~などを引き起こす)に対する調整を適宜加えることになります。大地の気を飲食物として最初に取り込むのは胃脾であり、ちょうど五臓六腑の中央ミゾオチに位置していてその全体を起動・循環させるのも胃脾です。そのため胃脾を整えることを中心に考える流派もあります。
漢方は常に自然界の実態をとらえないと観念的なフィクションになってしまいます。そうならないためにも五行のメイン「木火土金水」は春・夏・長夏・秋・冬の五季節をあわせた田園風景から理解すべきなのです。メインを理解しておけばサブにあたる生長化収蔵や魂神意魄志に
怒喜思憂恐も、風暑湿燥寒に青赤黄白黒と、ほとんどご自身で理解できるようになります。ひとつ大切なヒントとして、木(森や草花)を単に美しく穏やかで果実をくれる優しくてか弱いもの、と思わないことです。一見明るく優しそうな草木に花はその実相手を押しのけ打ち負かして自身がグングンと根を張り幹を伸ばし高く葉を広げ領土を拡大していく、まさに根強い力に満ちた華々しくも荒々しい、したたかな生き物でもあるということ。この辺りも踏まえて教科書の五行色体表を見ながらイメージ力を全開にして全部まとめてザーッと流して見て下さい。これを繰り返すうちに「あぁ~なるほど、そういうことだったのか!」と発見があるはずです。これぞ東洋医学!楽しいですよ。

 

 …このあたり、今の段階では分からなくて当然です。雰囲気だけ感じ取ってください。縁あってこれをお読みの方は、授業を受けていて何だか分からなくなった時にはこのサイトをもう一度読み直してみると理解の足しになるかも知れません。大切なのは人体筋骨五臓六腑すべての働きは田園風景のそれと同じなのだ、という根本的な世界観です。カレンダーの風景画に良いのがあったらそれを胸に張り付けて、それと同じ実寸大の景色にご自身が立つ様を思い浮かべて心を開き、ゆったりと呼吸しながら景色と自身の間で意識のキャッチボールをしてみれば私がここに書いたことが何となく分かると思います。

 もう一歩踏み込むなら、この時せっかくなので軽くバンザイの姿勢になり、肘と膝をゆるめ外に開く先述のトカゲの姿勢、経絡基本姿位を取って心身をゆったりさせて以下のように気功法として理解するのも良いでしょう。

 

〖気功術 周天功~陽周天の14経周天パターン〗

経絡図で前を向く顔・掌・腹側は大地・陰の気を足先から吸気に合わせ吸い上げ天まで昇らせ、後ろを向く頭部・甲・背中側には天・陽の気を手先から呼気に合わせ流し下らせ大地までつなぎ、また吸い上げ呼き下ろし…全体として後ろ周りの雄大な気の回転を得ます。これが陽周天、つまり上で①にも述べた天人地すべて成長方向・伸び広がる・順方向の気の循環です。上方のツボには天の気(太陽と山雲の気)が、下方のツボからは地の気(水土木の気)が流入し経絡を通じて臓腑へ流れ込み、反対に各臓腑からの気も経絡に乗って流れ回り各ツボから流出し更に天地へ伸び広がり太陽や森や海の気を絡めます。そしてまた両者が戻ってきてはグル~ンと天地と人体を外向き⇆内向きに渦を巻きながら大規模に気が回転・交流する壮大な周天の図絵を思い浮かべることができるなら、東洋医学の全貌が、そして私がここに書いたことの全体が見えてくると思います。この図の中に天も地も、五臓六腑も、ツボの適否も、食材や漢方薬のチョイスも、東洋医学の何もかもが含まれるのです。

動作は先述の〖気功術 基本〗と少し似ていますが、ゆるい万歳姿勢から背部に流し落とし、流れ降りた気流を両腕でフワリと足背・足爪先へ集め、前はやや狭めに足底・内股から昇らせる形になりますね。経絡は背部が広く体側まで広がり、前側は狭く包む形になっているからです。犬や猫の外側の色のついた強くまっすぐ流線形の毛並は陽経で腹部や内股の白くもしゃもしゃした柔らかい側は陰経です。陽が陰を守り陰が陽を育てます。例えば春の新緑草花の香りにそよ吹く風と流れる雲に川のせせらぎの中、気持ちのいい春風に乗って運ばれてくるこれら自然界の恵みを心と経絡でたっぷり受け入れながら全身で大きく後ろ回りに浴び巡らせます。自身も景色もフワーっと膨らみ育つ感じ。気功術基本を理解している人には実にナチュラルにこなせる明るくて軽やかな観る景色そのままと交流する気功です。

気には質と量の側面があり、本物の技術を体得すれば気量はいくらでも増幅できます。ところが一方の気質の良し悪しを決めるのはそれをしている本人さんの気分であり心持ちなのです。楽しみながら練功すれば良質の気に満たされますが、不愉快なことを思い出しながら気功をすれば悪い気が増悪して技術レベルが高まっている分だけ大量の邪気の塊に覆われてしまいます。良質の気を全身にまとうことで心も体も健康になれるからこそ美しく心地いいイメージの中で練功するわけです。また良い気に満ちた鍼灸マッサージ師の治療は実際よく効くものです。例えば肩凝りの患者さんに胆木経の肩井穴を指圧する機会はよくありますね?この時にただ筋肉をほぐすのでなく、周囲に美しい森や草花を思い浮かべながらその意識と一緒にズーン…っと経絡末端まで響かせてあげれば、きっと心底満足してもらえることでしょう。

 14経周天功ということで明らかに経絡を意識しながらの功法ですから天人地の原理に沿って練功しようという場合はご自身が胃の高さ(中脘穴)まで土に埋もれた感じで行うのも良いでしょう。土は天と地の境界線にあります。土より上の、目に見えている景色だけだと天地の半分の天だけを相手にしているとも取れますよね?地中深く潜ることで天地の気を五分五分に絡めることになります。空まで高く舞いあがり、地中マグマまで深く潜りこむダイナミックなイメージを加えながらの周天功なども気持ちいいものです。下図はこの14経周天功を絵面としてまとめたものです。昇りも下りも水⇒土⇒木⇒金⇒火⇒水⇒土…の順になっていますね?そして実際の臓腑の縦ならびとその物流にピッタリ合っていますし里山の風景とも完全に合致しています。天地人合一。これは五行で習う相克と反対の相侮(そうぶ)の順にあたります。

相克は木←土←水←火←金←木…つまり前のものが後のもののパワーを抜き取ります。

しかし後のものの力に余裕があって前のものを包みこむほどであるとこれがひっくり返り相侮となるわけです。

相侮は木⇒金⇒火⇒水⇒土⇒木…つまり前のものが後のものをゆうゆうと包み育て上げるもので大自然・小自然・五臓六腑の巡りとも重なるわけです。「侮」という言葉を悪い意味にとらず「包容力をもって与え育てる」と解釈すればすっきりしますね。

 

 

 

〖天の気は上方の経穴が多く取り込む〗

 

        ←

        心(太陽)

(川の流れ・雨水)肺(山雲)    後

   ↓ ↓     肝(森・草花)   ろ   腹

↓  胃ーーーーー 脾(土・天地の境界) 回  ↑  

 胆(根)   腎(水)     り           側

 大腸(麓・岩盤)  

 小腸(マグマ  ↑ ↑腎水に腎陽を与え蒸気が昇る)

  膀胱(尿水を地球に還す)

        →

 

〖地の気は下方の経穴が多く取り込む〗

 

 

 

これを見ると、あれ?大腸経(麓~岩盤)の井穴は手の次指・商陽では?それに小腸経(マグマ)の井穴は同じく手の5指・少沢なのに、どうやって足先から取り込むの?と思う人がいるはずです。上に書いた経絡の陰陽度のところを見ると手足の陽明として大腸経・胃経が、そして手足の太陽として小腸経・膀胱経が並んでいましたね?実はこの陽明・太陽・少陽に太陰・少陰・厥陰の手足の同名経絡は手の1~5指と同じ足の1~5趾の間で連絡しているのです。内経図を見るとよくわかりますね。陽明大腸経は手の2指で陽明胃経の足の2趾と直結だから麓~地中岩盤の気は土の気と一緒に胃経の厲兌穴から昇ってきます。同じように小腸経・マグマの気は膀胱経の末穴である至陰穴から水の気と一緒に吸い上げているのです。言うまでもなく手の2指・商陽穴から入るのは肺経・母指がからめて戻ってきた山雲の気であり、これが麓・大腸までくだります。手の小指外側・少沢穴からは同じ小指内側・心経がからめてきた太陽の気が通り下りマグマ・小腸までとどくのはもうお分かりですね。土は地中にあるけど山の途中まで登るし、岩は山を登るけど地中までもぐり、太陽は空からマグマは大地から熱を放ち、といった感じで天地相交するわけです。

たぶんここで手先と足先の経絡つながりのうち厥陰経に関して疑問を持つ人が出てくるでしょう。厥陰心包経は手の3指の中衝穴なのに、厥陰肝経が足の1趾外側の大敦穴だからです。初代鍼灸師医学博士芹沢勝助先生の「定本経穴図鑑」P425下段には、肝経の病症にともない「足の第3趾(心包経と同じく爪の外側でしょう)にかけて痛みが出現する」と肝経ルートの分枝が明記されています。また、山田光胤先生・代田文彦先生の名著「図説東洋医学基礎編」P90では胃経が第2趾に加えて3趾外側へも分枝していることが明記されています。つまり足の3趾へは胃・土と肝・木の気が流入していて、更に手の2指大腸・山麓岩盤と3指の心包・暖流までもが合わさることになるわけです。だいたいが足の3趾だけ経絡流注が無いなどとはおかしなこと。先述の通り暖流は火と水の気が合わさったものですから、この第3趾に土と木と更に山麓岩盤の気が集合することで木火土金水のすべてが流入していて、しかも五趾の中心に位置しますから特に全身のバランスを取る目的の治療をする上でこの足の第3趾は重要な施術部位となります。私の経験から言えば3趾は少し下に書いてある気の井穴指圧術に比較的敏感なので同じく井穴指圧に非常に反応の良い4趾と合わせて施術するといいと思います。ともに主は木経でもあります。井穴指圧術にはスポイトの意識、つまり注入しながら送り込みの意識と呼気を合わせ、吸い取りながら引き抜きの意識と吸気を合わせるのが基本です。手先だけでなく体と意識を乗せてグイ~ン…と伸びも加えることで気感と効能が強まります。

もうお気づきの通りで二つの経が合流している足の1趾も3趾もメインは木経と土経の合流ですね?木と土が十分に水を吸い上げてこその生物発展なのです。他経よりしっかりと大地に根を張っているわけです。足の1趾大敦穴からも肝木経が昇るのは最終穴の期門で一期を回り終えた12経絡が新たに肺経山雲を緑で豊かに彩りながら次の周天を始め、手の1指少商穴へ向かうためでもあります。

 

 

もう一方の周天が①と逆回転の経絡前回り、つまり鍼灸学生が覚えるツボ順とは反対回りの陰周天です。華やかで外向き軽やかに成長する活動的な陽周天とは違い、内向きに力を蓄え身心を引き締めドッシリ安定させる陰の気の循環です。

 

〖気功術 周天功~陰周天の14経周天パターン〗

陽周天と逆回りです。足背の陽経末端部から手を添えながら(体にはすれすれ触らない程度がいい。触れてしまうと気感がわかりにくい)吸気に合わせて下肢後外側・背中・体側の経絡(膀胱系や胆経、督脈)をザーッと昇ってきて頭頂部と手先を昇り越えたら両手で顔を隠す仕草をして、この顔と両掌の間を呼気に合わせ狭い滝がドーッ…と丹田の滝壺に落ちる意識を乗せます。周囲の山々から集まってきた滋養溢れる山水を体内に落とし込む感覚で繰り返せば陽周天とはまったく性質の違う重厚な気功であることが理解できるでしょう。そしてまた足背から昇らせ、落とし…気が充足する感覚を満喫すれば、ご自身の中で大きな発見に至るかもしれません。

 

周天功が分かってきたら陰陽両周天功を試してみてその日その場での相性をくらべてご自身に必要な気のパワーを蓄えてみると良いでしょう。

 人間を含む自然界の主眼は陽周天側、つまり活動と生長と繁栄であり、そのための充電期間が陰周天なので鍼灸学校においては逆回りのツボ順までは習いません。が、独自にやってみると色々と発見があると思います。

任脈は会陰穴に始まり腹側正中線を昇り承漿穴に終わり、督脈は長強穴に始まり背骨を昇り齦交穴に終わる、と習うのですが、どう見ても承漿穴と齦交穴は繋がりループを描き、任督脈が連結して人体を回ると見るのが自然です漿(唾液)を承る承漿穴とその唾液が湧き出す歯齦(歯ぐき)にある齦交穴は繋がります。会陰穴と長強穴はどちらも胞宮から起こるわけですからこちらも互いに繋がっているのです。

任脈昇りの生命力と、督脈昇りの勢力が十分にあれば互いにぐるりとループを描いて回り任・督脈は相互乗り入れで両方向に循環します。任・督脈は12経の中央に居る引率者(担任の先生と監督さん)ですからその流れに引き寄せられ12経、すなわち6陰経と6陽経も相互に乗り入れつつ両方向に流れ回ります。縄跳びの前回りと後ろ回りを同時に回すような感じですね。万物には陰陽両気が要るわけで、経絡循環は一方通行ではないのです。例えば腕を経絡ツボ順と逆方向にこすると握力が強まることなどから陰周天が理解できます。胎児は生物として弱いため母体内で体を丸め陰周天をかけ臍帯を通じて母親の気を体内に巻き込んで生命力を蓄積していきます。この間、体を丸めて逆さまになり地球の重力、つまり陰の力を利用して、生きる上で特に重要な脳(上丹田)を優先しつつ五臓六腑をも滋養します。誕生の産声と同時に赤子には陽周天が回りだし外気と交流し始め頭を上にして世に出ます。母親はお産で体外(陽)へ向けての必死の戦いを繰り広げてきたわけですが、誕生の産声を聞いてその喜び(心火)と赤子の元気・陽気を受け、また己れの分身である子を体外に失った感覚を味わうと、これを契機に内向きの穏やかな陰周天が回り始めます。母親が赤ん坊を優しく抱きしめる姿そのものです。体力が戻るまでのしばらくの間、薬膳や気功などの養生法も通じて胎児に与えきった生命力を内向きに蓄え、健康を回復していくと良いでしょう。内気が充実してしまえば元の普通の女性に何度でも戻ります。

胎児だけでなく大人の場合でも眠っている間は陰周天が主に巡り、朝起きれば欠伸とともに陽周天が回りだし、起きている間も意識や運動・生活の陰陽バランス次第で陰周天メイン⇔陽周天メインの間をシーソーのように行き来しています。

 体質的・精神的に陰周天寄りの人と陽周天寄りの人がいますが、どちらが良いのか?は断定できません。一般に陰周天寄りの人(陰気でパワーが満ちる)は夜型で、陽周天寄りの人(陽気を受けると元気になる)は朝型です。夜明けと日没にスイッチが入れ替わると考えれば当然ですよね。このあたりはけっこうな個人差があって、ライフスタイル・職業選択にも影響する大切な個性なのです。逆をいけば病気にもなりかねませんから早いうちにご自身の陰陽を確かめておくことは健康な人生を送るのに必要でしょう。夜の世界とか言うとまるで不健康な人たちの集まりみたいに思われますが、そういったことではなく、その人が最高のポテンシャルを発揮できる時間帯を示すものでその人の本性なのです。朝型の人ばっかりだったら夜勤は大変ですよね。朝が弱い人に早朝勤務させるのは酷な話です。それでも仕事ですから、不得意な時間にシャキッと勤務せねばならないときには先述の気功術・陽周天をかければどうにか誤魔化すことはできると思います。このあたりの陰陽判別は西洋医学には無いけれど、東洋医学では当たり前のことなのだと思ってください。

 

〖気の井穴指圧術〗

手足の各指先には井穴(せいけつ)と言う、まさに気の湧く井戸にあたる、気に対して最も鋭い反応を示す重要穴があります。気が体外に湧き出るツボか、体内へ湧き入るツボです。この井穴を揉む井穴指圧というのがあります。経絡の気流を正しい方向へ強めて身心の活動を高め邪気をも追い出す根本療法です。指先を押せば血液は体内へ進み、ゆるめれば指先に戻ってきますね?これをきっかけとして気を乗せるシンプルな手法ですから経絡図にある爪横の穴位にはこだわらず指先全体を包んで気持ちを込めて押し緩めを加えます。例えば気に対して反応の良い手の少陽三焦経の薬指末端の井穴である関衝穴を両手で包みスポイトを絞るように指圧して、そのスポイト延長線上にある三焦か、更にその先、足の少陽胆経まで呼気にあわせてシューンと気と意識が流れ通る感じが出るようなら普通に陽周天が回っているのでそのまま送り通しを繰り返せば一定の効果が得られます。ところが逆に、いくら押しても「詰まっている感じ、戻ってくる感じ、自然に流れて行かない感じ」がつきまとうなら、その方向は間違っていますので早々に切り上げないと逆効果です。反対にまず薬指の関衝穴からグーッと指圧で押しこんで三焦まで、または足の第四趾の足竅陰穴まで指圧に乗せて気と意識を送り込んでおいてタメをつけたら、吸気に合わせ指圧を緩めて同時にザーッと関衝穴方面に意識と気血をスポイトで吸い抜くように引っ張ってくる手法が流れを得たならそれが正しい気流方向であり、陰周天が回っていると判断できます。この場合、手の薬指の関衝に加えて、反対側末端の足の第四趾・足竅陰穴からシューンと送り込み陰周天を加えても良いでしょう。この第四趾(胆経)も指圧で気が良く回ります。もし竅陰の方も引き抜き側が良く流れる場合があってもこれは矛盾ではなく、双方向の陰陽両周天の状態と考えれば良いのです。少陽の両経、つまり三焦(暖流経)も胆(木経)も体外へ向いて流れているということは、体が内熱など邪気を排出しようとしているとも考えられます。暖流が動植物を生み出すステージは経絡流注上でも勢いのあるところなのだと理解すれば分かりやすいでしょう。上にも書いたように三焦は六臓六腑天人地全体を網羅するので、三焦と胆木を整えるこの第四指・第四趾の井穴指圧術を使えるようにしておくと様々な場面で活用できます。これらをトライしてもなんだかうまく気流が得られないようなら「陰陽両周天」をテクニックとして使います。ある井穴を指圧してシューンと送り込むのは施術者側の意識ですよね?ところが患者さんとしては逆にその指圧をされている井穴方向へグーンと意識が向くのは当然でしょう。これを利用します。施術者自らを発信元とするのですが、同時に患者さんからの井穴側への意識の流れも加えて施術者の意識を双方向へビューンと乗せます。むずかしそうに思えますが、やってみると意外と簡単です。吸気で患者さんと井穴に意識を集め、呼気であちら方向とこちら方向へと、反対方向に意識を分けるだけです。吸気で患者さんと井穴に戻ります。これを繰り返すうちに気の流れが出てきたらそのまま乗ってしまえば十分な効果が得られるでしょう。「気持ちいいわね」と喜ばれる手技でもあります。そして、ここまでしてみても流れが得られないなら気に触れて欲しくないか気が固まっているのでその井穴はあきらめます。その分ほかの指に流れが強い井穴が見つかると思うので、それを豪快に流し広げると全身的に良い仕上がりになるでしょう。

気の治療は人智を超えています。簡単に言えば「いい感じ」に至るなら、ほぼ間違いなく効果が発現するものなのです。痛みや認知症などで身心が荒れ狂った患者でさえ、この井穴指圧術が決まると数分間のうちにスヤスヤと落ち着き眠る状態まで持ち込めることも稀ではありません。指先を起点とした治療は、漢方医学の基本のひとつと言えるでしょう。

 鬱傾向の人は陰周天が強すぎて、陽周天に転じなければならない朝方にもそれができない重苦しい身心のジレンマに苦しみ、通常なら陽(日曜)から陰(月曜)へ、つまり楽しく気持ち良く太陽の陽気を浴びて元気をもらえる週末日曜日を経た上で⇒どっしり落ち着いた身心に整えてお仕事をスタートするはずの週明け月曜日への移行についても沈みすぎてスムーズに運べなくなるわけです。陰陽転化の週明け(陽日が陰月と重なり活動のバネを得る時、日/月、つまり「明(あけ)」です。朝日と月がいっしょに見られる夜「明」け(よあけ)、として考えてもわかりやすいですね)に合わせ、それに乗って勢いを増すことのできない人たちが力尽きてしまうことがあるのは社会問題であり周知の事実でしょう。鬱傾向の人はただでさえ陰気が強いのに冬になって日照時間が短くなると自然界からの陽気すら減ってしまい更にグッタリとなってしまいます。冬季鬱・ウインターブルーですね。鍼灸マッサージ師は心のケアを求められるケースも多いので、このあたりを熟知した上での治療は時代のニーズに重なると思えるのです。

 ツボにはその局所を治す機能と、所属する経絡の流れを加減したり気の正邪を入れ替えることで全身を整える機能とがあって、手足のツボはどれも自然界の気のエネルギーに対してアンテナのごとくシャープに反応し、胴体にあるツボは天地の気をそのままの状態で臓腑へやんわりと送り届ける特性がありますから、症状を読み解き使い分けると高い効果が得られます。東洋医学の流派には簡単明快なものも高度で難解なものもありますが、これらはすべてその時代の医学者が自分の解釈を古典医学に付け加え独自に組み立てたものであり、西暦200年頃に出てきた漢方のバイブルと呼ばれる黄帝内経や難経でもこれは同じです。元来は紀元前の陰陽論・五行説・天人合一・経絡経穴と、それらを包括する絶対的存在「気」が主軸となる実にシンプルな構造なのです。このあたりを理解した上で難しいも簡単も、古いも新しいも、有名も無名もなく、確かな効果があり自分の感性にマッチしていて気持ち良く学べる流派(ここが大切!)を選べば実力も身につくと思います。

 

さて、ここまで書いたので奇経八脈と15絡脈についても書いてしまいましょう。

 

(奇経八脈)

衝脈⇒丹田・胞中に生じ腹側と背側の両側から湧き出し天・地を衝く

帯脈⇒帯のように全経絡をまとめあげる

 

任脈⇒丹田・胞中に生じ陰経・腹側中央を先導し担任する

督脈⇒丹田・胞中に生じ陽経・背側中央を先導し監督する

 

陰維脈⇒12経のうち6陰経を横方向につなぎ維絡する

陽維脈⇒12経のうち6陽経を横方向につなぎ維絡する

 

蹻脈⇒12経のうち6陰経を縦方向に跳(蹻)ね上げる

蹻脈⇒12経のうち6陽経を縦方向に跳(蹻)ね上げる

 

先述の正経12経が人体における気のルートの中心です。そしてその機能を補うのがこれら奇経八脈で12経を縦横無尽に包み込んでおり、流注の途中で肝心心包脾肺腎・胆小腸三焦胃大腸膀胱の各経のツボを縫い合わせるように経由して結びつけているのです。上の各2脈それぞれが陰陽をなしています。奇経八脈全体の役割をまとめれば 「天地両極を衝き、帯でまとめ、中央をとりもち、横をつなぎ、縦に行き渡らせる」となります。ピーナッツ(落花生)のカラと似て中央が分かれ、真ん中がクビレていて両端が膨らみ、縦横斜めに強いスジが入ってます。内部に納めてある仁丹(ナッツ=エネルギー源)をクルリと包み保護しながら縦にトーンと伸ばしてもいるわけです。また奇経八脈はダムのように気血水を蓄えていて12経に過不足があれば足し引きして整えます。

先人から代々伝えられてきた八脈の使いかたに八脈交会穴(こうえけつ)または八脈主治穴という手法があります。八脈が気によって直結しその機能を発揮させるツボなわけですが、上の陰陽2脈を更に二組セットにして活用します。

 

衝脈は公孫穴(土の脾経にあり同じ土の胃経・豊隆穴と結ぶ絡穴で土性を強める)へ伸び

⇒腎水経の築賓穴を経て陰維脈が伸びて内関穴(暖流の心包経)へ

帯脈は足臨泣穴(胆木経の木穴で木性を強める)へ伸び

⇒水性膀胱経の金門穴(水性の強い郄穴で肺大腸・山麓へも水流を与える)を経て陽維脈が伸び外関穴(暖流の三焦経)へ

 

…この4脈組みの意義ですが、まず衝脈が天地両方位に向かってドーンと衝き轟いたところを帯脈と維脈でクルリとまとめあげ、そこへ土と草木花に暖流をからめて天人地全体に温もりと流れと潤いを与えます。華やかで栄養分に満ちていて潤いと暖かさにも包まれ、しかも勢いのある感じが分かりますね。陰維脈は水の腎経の築賓穴を経由するし、陽維脈も水の膀胱経の金門穴をからめることで土と草木の成長に必要な水流も与えられています。これと反対の症状、例えば心配事で食欲不振に胃もたれ胃痛(土・脾胃虚)冷えて乾いて気持ちも憂い(暖流も虚)といった身心が沈み連動せず本来の力が出せない病態であればこの組み合わせがマッチするでしょう。仰向けになっていただいた患者さんの横に座り、両手先を公孫穴と内関穴に置いた状態で(両穴に打った鍼を軽くつまんでいてもよい)、丹田から意識を乗せて衝脈をドーンと天地へ伸ばし下方は公孫穴まで指圧(鍼のあおり)に合わせて引いてきたら、その反動を使って陰維脈を上方へモワッと陰経群をまとめる意識を乗せ送りこみつつ手首の内関穴指圧(鍼あおり)へ到達させます。わずかな体動に呼吸・指圧(鍼のあおりでも可。両穴でタイミングをずらすことになりますね?)・意識を合わせてゆったり術を回していると、自然な気の流れが出てくると思います。

 もう一方の組みは、帯脈から足臨泣穴に引っ張ってくるときは帯を締め込み12経全体を束ねる意識を加えて下さい。戻りは穏やかな反動を乗せて陽維脈から外関穴までフワッと各陽経をつつむ意識を加えて送り込みます。

文字で読むと難しく思えるかもしれませんが、まず相手の下腹部に意識をもってきておいて⇒指圧する足臨泣穴に気持ちをグーンと引き込みためをつけて⇒指圧を緩めると同時にポーンと次の外関穴指圧部位へ意識と体を放り込めばいいわけです。シーソーと言うかキャッチボールと言うべきでしょうか?指圧と意念と気と動作が重なれば気が巡り出します。

どちらも得気を感じたら左右反対側も同じ施術で回してみましょう。

 

陽蹻脈は申脈穴(水・膀胱経)からポーンと跳ね上げ

⇒督脈を経て後谿穴(火マグマの小腸経にあり、火経の木穴=火力を強めるツボ)へ

 

蹻脈も照海穴(水・腎経)から元気よく伸ばし

⇒任脈を経由して列缺穴(山・肺経にあって麓・大腸経の偏歴穴との繋がりを強める絡穴)へ

 (蹻は足を高く跳ね上げて元気溌剌に歩くの意=スキップです。申脈穴と照海穴は足関節を内外から挟んでいてこのスキップ運動の要になるツボ)

 

…こちらの組み合わせではまず縦方向への水流を強めておいて左右へ等しく分配し、これをマグマの地熱が温めるなら山も麓から暖められ雲海が広がり豊かに逞しく育まれることを表しています。例えば水滞で浮腫んでいて体の左右どちらかに偏った凝りや冷え・熱感などの症状が出ていたりする場合には水流に勢いを与えて同時に気血水を運ぶ丹田の火と心肺を強める必要があるのでこの処方が合うでしょう。申脈穴から指圧とともに元気よく上方へ送り込み督脈を経由して後谿穴まで気持ち良く行き渡らせましょう。同じように照海穴⇒任脈経由⇒列缺穴も同じく施術者がスカッと気持ち良くなるような治療ができると患者さんにも良く効きます。陽蹻脈は膀胱経の別脈で蹻脈は腎経の別脈であり、また前述の内経図でわかるとおり任脈・督脈はそれぞれ腎経・膀胱経と正中線上のツボで重なりますから、この一連の気の連結を理解することができます。任督脈は先導役であると同時にバランサーでもありますから左右の施術にわずかな強弱や時間差をつけて左右差を調整することも検討しましょう。患者さんの足元に座って左右の申脈と照海だけに指圧をかけて任督と列缺穴・後谿穴へは意識と体動で送り込む手法も使えますね。こんな手法を使う時には上述の気功術基本を理解しておくと非常にわかりやすくなります。

 経絡経穴治療で大切なのは「自然観」でありツボでも経絡でもそれらの性質を正しく理解しておけば、あとは天地と人の間で大規模な気のキャッチボールをするだけで自然と治療効果も得られるのです。

 八脈交会穴の使い方はこんな風に使ったら良く効きましたよ、という先人からのお勧めであって、こうしなければならないというものではありません。八脈のどれかを単独で、または二組で、あるいは上記の四つ組みで使うべき症状もあれば八脈すべてを合わせる施術も出てくる可能性があるわけです。上記のような八脈それぞれの意義を理解していれば使い方も自然と見えてくるでしょう。

 奇経八脈図は教科書に載っていなくても花田では担当の先生からいずれ配布されますから、先述の内経図と同じく教科書巻末12経図と一緒に見やすいところに張っておいてください。一生使えるものとなります。

 

(15絡脈)

まず手足先で12経の繋がりを強める12絡脈です。木・火・相火・土・金・水のすべてに昇りと下りの物流がありまして、木が養分を吸い上げ⇔陽を浴び、太陽は空から光を⇔マグマは下から熱を、土の中から植物が育ち⇔土に養分が降り、山へ昇り⇔麓へ下り、蒸気⇔雨…といった感じで、昇りと下りは分断できるはずもありません。胃と脾、膀胱と腎臓、胆と肝。もうご覧の通り六腑は下りで六臓は昇り。互いに混ざりあい循環することはお分かりですね?循環しきれず混濁するなら濁気が滞りその結果病邪が生じます。

各経が昇り切って下りに転じる、または下り終えて昇りはじめるところ、つまり気血水が滞りやすいUターン部分を滑らかにして陰経と陽経の結びつきを滑らかにする経穴の組み合わせです。12正経は手足の指先の井穴ですべてつながりますが、それに加えて手首足首関節付近にあるツボ同士がまさに首根っこで陰陽直結することで繋がりを強固にしているのです。

 

肺経の 列缺穴 ⇒ 大腸経の偏歴穴

胃経の 豊隆穴 ⇒ 脾経の 公孫穴

心経の 通里穴 ⇒ 小腸経の支正穴

膀胱経の飛陽穴 ⇒ 腎経の 大鐘穴

心包経の内関穴 ⇒ 三焦経の外関穴

胆経の 光明穴 ⇒ 肝経の 蠡溝穴

 

例えば咳が出ているのにガスがたまって放屁が多いとなると、山(肺)と麓(大腸)の間が滞っていることになります。山は風雨や雲や日差しに動植物など様々なものを受け入れる(五能の「収」です)と同時にそれらを川の流れによって麓から受け流し、上空には雲を広げます(宣散ですね)。この流れを拒むように上からも下からもはじき出す症状はその内部も滞っている状態を示します。双方のつながりを良くする必要があるのです。肺は呼吸器で大腸は消化器なので直接つながるわけはないと思うでしょうが、空気を飲むとオナラが出ますね?呼吸と嚥下は深く関わります。患者さんは仰向けになり、術者は横に座ります。両手を下げてもらいましょう。こうすると術者は肺経の列缺穴と大腸経の偏歴穴の左右両穴に触れやすくなります。うつ伏せになり万歳姿勢をとってもらい、両手首を持つ形もあり得ます。あとはピアノの鍵盤を撫でるように両穴をつなぐ施術を僅かな体動と意念を乗せて繰り返すとやはり気の流れが乗ってきます。按摩指圧術は言ってみれば気功なのです。

 

次に任脈と督脈をつなぐ任督絡脈です。

鳩尾穴 ⇔ 長強穴

の間をつなぎます。任脈は股下の会陰穴から上がってアゴの承漿穴まで昇っていてルートの半分は骨の上にありますが半分は肉の上にあります。督脈は尾骶骨先端の長強穴から昇って頭頂部を経て歯ぐきの齦交穴まで到達しますので全ルートが骨の上にあります。両経が繋がって輪を描いているのですが、任脈途中の胸骨剣状突起先端にある鳩尾穴と、尾骶骨先端にある督脈最初の長強穴が絡脈でつながるのはループ途中にある尖った骨の先端同士をつなぐことで、肉性の弱い部分も含め輪状に強くつなごうとしていることがわかります。任督脈は正中を先導する気脈であり、これが滞れば12経全体の流れが弱まりますから絡脈で連絡を強化しているわけです。このあたりにおいても「そういったストーリーになってるわけね」では読書レベルで低次元の理解です。先述の周天功などは経絡を実体験するためにも必須と言えるでしょう。

 施術はシンプルで、患者さんには側臥位(横向きに寝ること)になってもらい施術者は横に座り、仙骨と胸骨に手掌を沿わせます。掌底から指先にかけて(または指先から掌底にかけて)波打たせるような手技をかけつつ鳩尾穴・長強穴を超えて任督両脈を会陰部で交差させる意念とわずかな体動を合わせます。これも気が通ると独特で滑らかな感覚が出現します。身心の片寄りを正し12経全体の活気を取り戻すねらいに適していると言えるでしょう。

 

もうひとつ脾経(土性)の末穴である大包穴は単独で存在する脾の大絡(たいらく=五臓六腑全体へ土の滋養を広く散布する絡脈)です。

大包穴は脾経末端にあり、土が天地から受納した恵みで五臓全体を大きく包み滋養するので大包の名を冠しています。これも使いかたはシンプルで、患者さんは腹臥位(うつぶせ)になって腕は上にあげてもらいます。施術者は足先を見て横に座ったら、腋下6寸の大包に掌底をあて、肋間沿いに五指を開き側胸部に当てます。ちょうど五指の先が五臓を向きますね?そして掌底から指先にかけて波打つ手技に呼吸とわずかな体動をあわせ、指先から五臓六腑への滑らかな波を意念しながら繰り返せば得気が発生します。五穀や五果に五畜を摂っていても脾が弱くて下したり詰まったりでは滋養が得られず元気が出ません。そんな時に使うと有効な絡脈でしょう。

 

経絡という言葉を読み解くと「経はタテ糸(経度)」「絡はヨコ糸(緯度・連絡)」となります。経絡図を見ると特に胸腹部と背腰部のツボは縦方向だけでなく線は描かれてませんが横方向にも綺麗に碁盤の目のように連なってるのがわかると思います。良く見ると手首・足首・膝・肘・額あたりも横のラインが見えてきますね?実はこれも絡脈と言えるのです。例えば背部T9に並ぶ筋縮穴・肝兪穴・魂門穴の横つながりなどは、その名前と場所から見て明らかに肝の臓に関わる経穴の横並びです。筋は肝が主る器官⇒兪から肝に直接入る⇒肝の五神・魂にまで至る…と考えるなら3穴に指圧功をかける場合は三つのツボに指を置き、内から外へ波打つように連続的に施術すると良いのかも知れませんね。あるいは掌底を筋縮に置き指先を魂門側へ向け、掌底⇒指先にかけて波打つような按摩を実際にやってみてどうか?東洋医学はここが大切です。気が乗るかどうか?乗れば〇だし乗らねば✕…ここがいちばん重要なのだと思ってください。理詰めの鍼灸は効果が限定的と思っておいたほうが良いと思います。

 

15絡 についてお伝えしましたが、上に書いた奇経八脈と同じでその使い方に決まりはありません。経絡の性質上、連結を強化する必要があってそれをまかなっているのが絡脈だということなのです。患者さんの状態を見ながらその人に特に必要な経絡の繋がりを高めようと検討すれば絡脈の活用方法も見えてきます。

 

…ここまで読んで明らかなように、気は実質的なエネルギーであり、それをどうコントロールするかが重要です。鍼灸治療の世界に「配穴=はいけつ」という言葉があって、ある症状に対して東洋医学的に正しいツボ群へ鍼を打ち配置することを示します。伝統ある高度な経絡経穴理論による治療です。…ところがここまでに書いたように、これだけだと方向性は合っていても効能は不十分となる可能性があります。気は実際に運用するレベルの物理現象であって、経験不足によりここを理解していないと「効いているのかいないのか…」とか「この配穴は合ってるのか間違ってるのか…」という最終的に重要なところを施術者の頭の中にある理論だけで片付けてしまう可能性大です。鍼は囲碁や将棋のコマの配置とは違うことを知っておかないと「東洋医学の鍼灸を受けたが納得いかない」っとなりかねないのです。気の感性は必須でしょう。繰り返しになりますが「いい感じ」になるかどうか?が気の治療には大切なのであって、重厚な漢方理論などより重要になる場合もあると知っておきましょう。

 

 

ところで私自身が良いと思い影響を受けている流儀や理論にその著書などとしては…

 

☆杉山真伝流⇒言わずと知れた江戸時代の鍼名人、杉山和一公の管鍼法を継ぐ鍼灸の主流である。技術も道具も世界的に認可されていて、日本鍼灸の実力を海外にも知らしめたパイオニアと言える。技としても気の感応を治療の要としている点が鍼灸の意義に合っているし、気功師の私にマッチしていて、鍼を指先の延長と考え手技で得気をねらうのも自然に感じる。ただし、手技の種類が多すぎることと、実用性に疑問を感じるものや少し荒っぽく思えるものが含まれるところが難点。「杉山真伝流臨床指南」は良書と思う。

和一公のお墓が小田急江ノ島線片瀬江ノ島駅徒歩10分ほどの島内にある。

 

☆仙頭正四郎理論⇒ 人体=自然界という中医学の天人合一に基づく考察は私の気功・鍼治療と重なり、難解な漢方理論を仙頭流にスッキリまとめ直した世界観が気持ちよく響いてくる。過去の医学者たちがどう考えたかについては興味がない、と明言するところも決然として清々しい。仙頭先生はドクターであり、お話の内容が漢方薬寄りで鍼灸マッサージに関してのコメントが無いところはちょっと残念。決定版は「標準東洋医学」でしょう。一般向けの「東洋医学基本としくみ」もいい。

 

☆芹澤勝助理論⇒さすが日本で初の鍼灸師医学博士であられるだけに、東洋医学と西洋医学を見事に合流させている。それにも増して芹澤先生の人間味あふれると同時に東西医療の知恵と技を小気味よくちりばめた文章表現力に引き込まれ、これぞ心身一如の鍼灸医学だろう!とモチベーションもいただいた。数多ある芹澤先生の著書の中で集大成は「定本経穴図鑑」だと思う。

 

 ☆気功⇒天と地と人を気のエネルギーを以ってダイレクトにつなぎ良きを導き邪気を祓い元気を養う優れた東洋健康術であり鍼や按摩にも応用できる。特に私が長年研究し施術してきた外気功は気の実力を行使する技の最高峰と言える。このサイトで述べる通り、気は東洋医学において絶対の存在であり得気を経て整えれば一定の効果が得られ流派も超越できるし鍼や按摩の術にそのまま応用することもできる。中身のない精神論ではなく物理的な現象をも引き起こすエネルギーの具体的な運行技術体系が気功である。ただし気功は色々なものがありレベルの差も大きくおすすめできる本も今のところ無い。中立で具体的という意味では私がこのサイトに書いてるあれこれを理解・体感した上でどこかの気功を学ぶなら無難と思う。どれにしても気を実質的なエネルギーとして取り扱う流派でないと理論ばかりで治療には使えない。しつこいようだが「気感」を重視する流派を選ぶこと。

 

☆背骨流し⇒別名 背部リコイル調整法と言う手技です。背骨の中でも特に胸椎(T1~T12)という脊椎動物骨格の中心にありながら、同時に、心血管系の中心(心臓・大動脈と重なる)でもあり、リンパ系の中心(胸腺・胸管と重なる)でもあり、筋肉系の中心(運動のコアになる僧帽筋と重なる)でもあり、神経の中心(脊髄と重なる)でもあり、精神の中心(心の臓・中丹田と重なる)でもあり、そして経絡の中心(督脈と重なる)でもあるという、多系統の中心をなす胸椎に両手を当て、ちょうどサメなどの大きな魚がゆったり泳ぐようにユラユラと体幹から末梢までを揺らし流し行き渡らせるシンプルな手技である。魚は人間を含むすべての脊椎動物のご先祖様でありその動作からは学ぶべき事が多い。魚類は見ての通り体に歪みが無く、泳ぐ姿そのものが理想的な全身健康体操であり、恐らく血流の滞りも皆無だろう。実際お魚は人間と違って難しい病気にかからないし死ぬ直前まで元気だと言う。やってみると分かるのだが、泳ぐ魚の左右ウェーブ動に加えて螺旋の動きが加わりこれらが多系統へ放射状につながるから全身全方位へ同時連続的に波を起こすことができる。つまり胸椎周辺に蓄積し絡みつく澱みを解きほぐしながら全身多系統を複合的につなぎ、中央から末端への血流・リンパ流・筋肉関節の運動流・神経の感覚流・気功の技があれば経絡に気流をも送ることのできる理想的な運動法・マッサージ術・気功法でもあり、解剖生理学的にも東洋医学的にも優れた手技と言えるのである。

 

☆解剖学x軸索反射⇒肩・腰・首・膝など、臨床をしていて痛みの訴えが多い局所を直接的に治療する基本として極めて重要。ちなみにここへ気の治療を合流させることで東西医療合作の大いなる効果を得る可能性があり私もこのあたりトライしている。

解剖学は図解と文章のマッチ度が重要で、教科書がかなりの良書。ボロボロになるまで読み倒すのが吉。ただ、各章末の文章は図解が無いのでネットや他のアトラスなどから図を見付けて引っ張ってきてほしい。著者の樋口桂先生の授業に当たればラッキー!豪快スピーディーな板書きに圧倒されること間違いなし。

アトラスでは佐藤達夫先生の「あたらしい人体解剖学アトラス」はクリアーな立体画像で見るだけで理解できるし欲しかった画像が多く含まれる気の利いた良書。「プロメテウス」も画像は超一流で人体の詳細が分かる傑作だが誤訳・間違いが多いのが少し残念。小型本なら「分冊解剖学アトラス運動器I」は良いがお決まりの神経支配の図が無いことと、旧版はラテン語表記になっているので英語表記の新版を選ぶこと。

解剖生理学なら「トートラ人体の構造と機能」が文章・画像・構成すべてにおいてベストで読み物としても面白い。

軸索反射は「はりきゅう理論」の教科書の該当ページが良い。軸索反射は元々鍼灸を中心とした理論ではないので、逆に鍼灸を中心に考える軸索反射理論はとても有効。

 

☆薬膳x栄養学⇒鍼灸按摩に気功などの健康法をしていても、飲食に誤りがあれば内から病邪が生ずる。基本的な薬膳理論と栄養学をおさえた上で腹八分目を心がければその人の健康ポテンシャルは間違いなく向上する。なぜか知らないが学校の教科書では東洋医学概論に数ページ簡単に書いてあるだけで薬膳・食養生をほぼ扱っていないのは不思議に思う。鍼灸に頼る患者さんは健康意識が高く、食養生の話をすると大変に興味を持たれる人が多いと私は感じている。その人にマッチする薬膳レシピを渡してあげるのもいい。薬膳書は橋口医師御夫妻の「今日からはじめる野菜薬膳」が楽しくシンプルで実用的だし基本的な栄養学にも触れている。薬日本堂監修の「薬膳漢方の食材帳」は帰経(きけい・その食材や生薬がどの経絡に効くか?)も載っているので併せて読んでも面白いかもしれない。「からだによく効くスパイス&ハーブ活用事典」はお遊び風で中身の軽そうなタイトル本が並ぶ書棚から私が発掘した本物である。著者の吉田よし子先生は東大農学部卒後、農林省の研究員を経て熱帯食用植物を調査研究された薬草のエキスパート。漢方薬とまでは行かずにちょっと大きなスーパーなら売ってる薬食材で病気予防・養生ができないだろうか?と思う人や、体質や症状に合わせた薬膳カレーをどう組み立てようか?と考える私のような薬膳系の調理師が、是非とも参考にすべき本だと思う。ディル(蒔蘿じら)やセージ(丹参たんじん・中国薬用サルビア)に花椒(ホアジャオ)、オレガノ(花薄荷はなはっか)やフェンネル(茴香ういきょう)にクミン(馬芹ばきん)などややマニアックなものから胡麻・三つ葉・紫蘇・にんにく(大蒜おおびる)など身近なハーブまで可愛いイラスト付きで楽しくも医学的・科学的に書いてくださっている。エネルギー代謝などの本格的な栄養学についてはそちらの道へ進む人でなければ生理学の教科書で十分ではないだろうか。

 

…こんなところでしょうか。

 

総じて、天人地の三者どれもがスムーズに巡っていればすべてが安定的に成長し人の健康も高まり病邪が蓄積することも無く、巡りの悪いところを見つけてほぐし流し本来あるべき状態に戻すお手伝いをするのが鍼灸マッサージ師の仕事と言えるでしょう。

蛇足ながら、このどれかが和を乱し、奪ったり壊したり汚したりが過ぎると、それは三者の関係を悪くするだけでなく自身の健康と豊かな環境をも失い、難治の病邪すら生み出すことになります。天と地と人の健康を考えるのが東洋医学なのです。

 

 「気」があることはその技術を知っていれば事実体感できて疑いの余地も無く再現性もあるのですが、化学的にはその存在が完全に証明しきれていないためか鍼灸教育課程における気は理論上の扱いが主で、授業でも気を実感するトレーニングは残念ながら公式にはありません。ですが花田にはユニークな先生もいらして、VAMFIT創始者の木戸正雄先生は鍼の名人として全国的に知られているだけでなく、楽しくて中身の濃い授業をする先生として有名です。お話の中で気を感じる簡単な方法など手ほどきいただいたこともありました。気を知覚するきっかけとしては面白いので興味ある人は楽しみにしてください。気を具体的に扱う鍼術として有名どころでは江戸時代から続く杉山流(手技の種類が非常に多く、その中から気の調整に使えるものを自力で見つける必要あり)が知られています。私のとこはもちろん気が中心で気についてはサイト内の他のページにも少し書いてありますのでご参考になさってください。花田には気功サークルもあるようです。

 

正しく身につけてきた技術や知識はすべて報われるという意味で、気の治療についてもう少し書きます。

 

鍼や指圧に気を乗せる具体的な技術は気の実感(気感)を知っている人にとっては難しいものではありません。問診をして脈診・触診等もした上で必要なツボに鍼を打ち静かに気の手技を加えると自然にモワーっと気が立ち昇ってきます。これを得気(とっき)と呼びます。ツボが合っていれば短時間で気がボワッと増幅し患者さんと鍼師を包むやわらかな気場が生じます。この状態に持ち込んだところで自分が学んできた知識や流儀に従って元気を補充する補法とか邪気を抜き出す瀉法などのテクニックを加えて治療するわけです。

…ただ私の経験から言えば、自意識を捨ててこの時の気の反応に手先を任せておけば気が自動的に身心をニュートラルに調整してくれるので、理論尽くめの鍼・指圧の操作はあまりし過ぎない方が無難です。得気が極まると鍼でも按摩でも気の自発動(じはつどう)と呼ばれる術者の手や体がグリングリンと気流に乗って自動的に回り動きだし、術者と患者が経穴を通じて完全につながる気のエネルギー循環が起きることが時々あります。この自発動まで行かずとも「あ、来たかな…」といった風で意識と体が急に柔らかくなり、しかも同時に気持ちがグーッと集中する時があります。快適感をも含む。これも得気です。 これらやこれらに近い境地に至った時はそのまま気流に任せ、自然と静まるまで気に乗れば必ずと言っていいほど大きな治療効果を得ます。このあたりはもう言葉で説明しても無駄でしょう。患者さんの様子を見ていれば誰にでも分かる。人智を超えた無我の境地は意外と身近にもあるのです。

 得気が起きているということは気が拘束を解かれたことを意味し、発生した気の層は生命力そのものが湧き出したものでそれ自体が独自の運動性と方向性を持ちます。繊細で圧迫を嫌う。「東洋医学は人の自然治癒をお手伝いするもの」という原則を超えてはいけません。良かれと思って無理な圧や牽引を加えると患者さんの気に負担をかけ疲れさせ、それとつながる鍼師までも疲労困憊します。本当の話です。やっていて「なんか変だな、スムーズじゃないな、引っかかるな、不快だな、疲れるなぁ…」であればダメ。「流れてるな、滑らかだな、力強いな、気持ちいいなぁ…」ならばOK。良い治療ができています。気は波及するもの。ゆったりとした心身安堵感に術者と患者の両者が包まれるなら、それこそが有効な鍼灸マッサージ治療の印です。このあたりは重要です。たまに患者さんからゾワッとする邪気感が来ることがありますが良い気場を回せばじきに薄まり消えていきます。「いやぁ…つらいのが取れただけじゃなくって、なんと言うのかその、全身がフワフワとしたものに包まれて心底くつろげたと言うか、不思議と言うか…う~ん…これはいい!来週またお願いします」っと嬉しい言葉を何度も聞くことになります。逆にこの状態に入れなければその治療はあまり効いてないと考えましょう。ツボが合ってないので選び直し再トライ。それでもダメなら暗記したものや流派の教えなどは忘れてしまい、これまでの経験から見つけた「自分が得意なツボ」「なぜか好きなツボ」を単純に試すと意外にうまくいくケースが多いです。その鍼灸師ならではの気質と気流があるため気の出入り口であるツボに対しても相性の良し悪しがあるわけです。阿是穴(あぜけつ)という漢方言葉があります。「あ、ここのツボが良さそうだ」という意味です。患者さんが「あ、今のとこ気持ちいいからもう一回頼むよ!」と言う場所を指すのと、施術者側が「あ、ここだな…」と感じる両者を含み、この両者が合致するケースが多いのには驚かされます。「阿是穴は理論的な裏付けが不十分だから…」などと笑う鍼灸師さんもいますが、それは思い違い。やってみると即座にモワーっと得気が生じて非常に良く効く優れたツボです。雑に聞こえるかもしれませんが経絡図を見れば分かる通りどのツボも全身を巡る路線のどこかに位置していて、遠回りであっても必ず目的地に到着するのですから、この施術は少しも間違っていません。ここらは誰も教えることのできない経験医学と考え自身のツボに、人のツボに、指圧したり鍼打ったりお灸したりの経験をじゃんじゃん積んで相手の感想も聞きながら「本物のツボ」を心と体で見つけましょう。当然のこととして患者さんの気質や症状に合わないツボも出てきますが、多様なツボ経験を重ねておけば代わりが見つかるから大丈夫です。学んできた流儀を追及するのは良いことですが相手は人間であり理屈通りには行かぬもの。打った鍼が生ずる得気や患者さんの感性のほうが遥かに重要です。様々な流派がある鍼灸の中心に「気感」という実在明らかで効果確実な現象を置くならば東洋医学から離れていく鍼灸師さんの言う「お話は素晴らしいが具体性に欠け手応えも弱くてわかりにくい。伝統を学ぶより科学的にやりたいのだ。」というもっともな疑念にも強いインパクトを以って応じることができるし、分かりやすいからと言って安易に解剖生理学へ片寄る鍼灸界を軌道修正することになるのかもしれません。上にも述べた通り、私は気の存在をお話だけでなく、物理的な現象として実際に証明することができます。

気感は気功師や一部の鍼師・按摩指圧師が知るもので、普通の医療に携わるお医者さんや薬剤師さんには関わりの無いものです。このあたりを技術として研鑚することが東洋医学者の独自性や存在意義を発揮することになるのかも知れません。

 

 〖気の鍼術 基本〗

上の方に書いた気功をやってみて、ある程度の気感が手先に発生するレベルに達してからやってみると良い結果につながると思います。

 

・腹臥位(うつぶせ)の患者さんの横に座ります。施術者の背がかがんでいては気の鍼はできませんので膝をつくか、椅子に座るなど何らかの方法で背を立てます。患者さんが布団に寝ている状態なら片膝を立てて座り胸をあずけて脱力する方法があります。

患者さんの背部兪穴(膀胱経)を触診し「おや?」っと何かを感じる部分に鍼をします。理屈は無用です。手の気の感性にまかせます。

・その経穴に普通に切皮・弾入を柔らかく、鍼管を叩かない程度に行い鍼を刺入します。

・鍼柄が沈んだら、押し手を緩めて刺し手の示指でそのまま鍼管をやさしくトントントントン…っと穏やかな意識を乗せて打ちます。経穴が開き気が浮き出してくる感じがわかりますか?

・ここで鍼管を抜き去り、鍼に旋捻をかけて三分(1センチ)ほどこれもゆっくりと刺入します。

・鍼を両手でふんわりと押し手と刺し手の両方で包み込むように持ちます。押し手は皮膚から浮いていてかまいません。鍼に触れているのは両手の母指と示指ですね?小指側は皮膚に軽く乗っています。

(このあたりまできてるのに、あれ?気の反応がないな…これは外したかな?っと思ったらツボ選びまでもどってしまってもいいでしょう。気は生き物ですから千変万化。押し通しても無駄です。あちらに合わせることも大切なのです)

・さてここからが気の鍼術の本番です。鍼を軽くつまみ、両掌をわずかに包み込みながら数ミリ程度ツーと引き上げます。そこでフワッと力を抜き、引き上げた分だけ緩め降ろし両掌も開きます。このツー…フワッ ツー…フワッ を繰り返しているうちに手元に気がモワーッと湧いてきます。うまくすると一帯に暖かい気感と気の濃厚感が立ち込めていよいよ得気が起きつつあるのが感じられ、練習した気功の意味がハッキリと理解できるはずです。ちなみに杉山真伝流の雀啄(じゃくたく)とは別物ですから混同しないようにしましょう。

・ツーっと引く側を主とし長めにするのは瀉法で邪気を抜く技術だから引き抜く意識を合わせ、逆にフワ~ッと降ろす方にタメをつけると補法となり元気・陽気を補いますので気をジワーっと染みこませるような気持ちも乗せます。抜く意識か降ろし沈める意識のどちらかを鍼術に合わせ、鍼の抜きと降ろしにもわずかにどちらかのアクセント(時間差+意識)を加えるということですね。気の流れがでてくるとモワーっとした気感があふれてきて施術者も患者さんもこれに包み込まれ、一種独特の幻想的な感覚に没入し、これが極まった境地こそが気の鍼術最高の治療効果を発揮する場面と言えるのです。この恍惚感を味わえば味わうほど治効が高まります。そしてピークを過ぎて徐々に気流が落ち着いてきたら邪気が抜け、気が平定しつつあるので穏やかに施術を終了します。

・補瀉のどちらを選ぶかについてですが、事前に証を決めて施術するよりも、やっていて自然に感じる側に合わせていくほうが遥かに効きます。虚実は人の判断で決められないことも多いと考えておいた方がいいでしょう。補法でも瀉法でもないニュートラルな施術になることもあります。いちばんいけないのは、ある流派とか指導者の教えに従い脈診や舌診によって「このパターンは虚で、こうなったら実」っと一方的に決めつけてかかり、施術者側の理屈だけで証を断定してしまうケースです。これだけの理論でグイグイと気を押しこまれ引き抜かれる患者さんは迷惑千万でしょう。気が物理的な力であることを上述の気功を通じてご自身の体で理解した鍼師ならば簡単に分かることです。脈や舌を参考にしながらも、気の感応を中心に置くのが自然ですし、それこそが気の医学だと思いませんか?

 この気の鍼術はやってみるとわかるのですが、鍼治療といった感じよりも「鍼を中心軸として気でマッサージをかける技術」といった感触になると思います。何度も経験するうちに気のコントロール・気との付き合い方が分かってきて必ず役に立ちます。上記は飽くまで基本中の基本であり他にも色んな気の鍼術がありますが、これを知らずして気による治療を語ることなどありえないのです。

 

〖気の鍼術・指圧術にともなう自発動〗

先ほども少し書きましたが気功術の基本を体得した人が鍼や指圧をかけていると、あるとき突如として独特の瞑想状態に入り込むことがあります。意識がぐーっと深まり落ち着く一方で、一種の高揚感があふれる状態。これは互いの気がつながり充実して強い気場(きば)が発生している状態と考えて間違いないでしょう。この感覚にあわせて手先が勝手にグルングルンと回りはじめたり、ゆらゆら揺れだすフェーズが訪れたらついに気の自発動(じはつどう)の境地に入ったと思ってください。気そのものが流れを発生させて正常を取り戻そうとしています。これが始まった時は施術者の手は媒体にすぎませんから、もう何かを考えるのをやめて無念無想、気の流れにすべて任せます。鍼を持つ手の揺れ幅がおおきく危険と感じたら鍼から手を離し周囲に指を置く形にシフトすれば大丈夫です。十指の先を立てるか掌を乗せるかが良いでしょう。感触が不自然なら微調整します。鍼を真ん中に置いて指圧やマッサージをかけているような姿になりますね?あとはただ揺られるだけ。しばらくして自発動が落ち着いてきたら瞑想も解けますので終了です。終始いい感じが味わえたらほぼ必中で、特に「体が暖かくなった」という言葉が聞けた時は完ぺきな仕上がりです。理屈抜きの高度な治療効果が得られます。上達してくると予感がしてきて、自発動を意識的に起こすこともできるようになってきます。 

 

◎「気」が東洋医学の根本であるのに対して「軸索反射」というのが西洋医学・生理学側から見た鍼灸マッサージ治療効果の基本と言えるでしょう。腕や足の皮膚を爪の先でスーッとこすると少しして赤いスジが出ますね?あれが軸索反射です。この反射を利用して、例えば肩こりやスポーツ障害等をおこしている筋肉や関節に鍼を刺入し、鍼術を駆使して適度な刺激(このあたりも鍼灸師のワザであり、我々が身に付けるべき重要な感性です)を与えると、その神経末端の軸索と呼ばれるところからCGRP(carcitonin gene related peptideカルシトニン遺伝子に関わる小タンパク質)という物質が反射的に出てきて、これが血管を広げ血流を促し肩凝りや痛みのモトを洗い流します。蚊などの毒虫に刺された時にその刺激に応じて即座にこの反射を起こし血流を増やすことで免疫細胞を集め毒素を除去する生体反応とされているのですが、鍼灸ではこれを応用しているわけです。皮膚を爪でこすってみるとけっこう長時間スジが残ることを考えると鍼治療効果にも持続性があることがわかります。この治療を繰り返すことで本格的に血流を改善し、症状の完全な除去をねらうのです。上手に使えば肩凝りや腰痛だけでなく、さらに別の症状にも応用できる可能性がありますので授業でこのあたりが出てきたら、その理論も実技も重要なところと思って臨みましょう。研究の対象としても良いかも?

花田に通っていた時の話なのですが、運動指導業務をし過ぎたためか四十肩になってしまい右腕の上げ下げに強い痛みが出て、関節可動域も極端に小さくなってしまったことがありました。かなり痛い。当時花田の矢嶌裕義先生という方から鍼の実技授業を受けていて、授業中にこの事を相談してみたところ、それではちょっとやってみようか、となりました。先生はクラスの皆さんにも私の症状を説明しながら私の腕を色々な方向に動かしつつ痛みの状況を確認した上で、鍼を深めに刺入しやんわりとした鍼手技を加えて下さいました。「では、しばらくラクにしていてください」っと言ってクラス全体を回って指導してから戻ってこられて、結局10分ほど置鍼したあと抜鍼していただくと、あれほど固まっていた肩関節がニュ~っと、まるでチーズが溶けるようにその場で伸びほぐれたのです!これにはさすがに驚きました。何が起きたのかと矢嶌先生に質問すると「いや、これはそんなに難しいものではなく肩関節の構造を少し理解した上で症状を確認し適切な部位に鍼を打ち適度の刺激を加えれば誰にでもできるレベルのものです。ポイントは軸索反射と肩関節の機能解剖ですね。ちゃんと勉強していけば全然やれますよ。」とのお話をいただきました。鍼は本当に効くんだな~っと身をもって感じることができて嬉しい瞬間でした。それ以降は急激に症状が軽減していったのを覚えています。もちろん今は完治しております。

 

◎実技に関しては授業にとどまらず、見る・受ける・施術するの機会を積極的に作ってどんどん体を動かし経験するのが良いと思います。やっているうちに自分に合った形や目標になるものが見つかるでしょう。

 

◎どの先生も経験豊かでそれぞれの専門分野や得意技をお持ちの実力者であり師匠です。先人を敬い、良い授業をしてもらえるよう準備を整え、どんなことでも気持ち良く教えてもらえる関係を作るよう努める姿勢は、実践力を身に付けるために職業訓練学校に入学した学生として当然のことだと私は思っています。もの静かな先生も重要なことを話してくださることがあり聞き漏らすと損しますから居眠りなどしないことです。「鍼灸学校の教員は臨床経験が少ないからねぇ…」などと分かったようなことを言ってる人が一部にいますが、こんなのは子供じみた思い込みかお金儲けをねらうお話上手などこぞの大先生の宣伝文句に乗せられているだけなので相手にしないでください。花田の先生方は色んな経験がありながらも厚労省の意向に合わせたニュートラルな鍼灸マッサージ術(鍼灸マッサージの標準治療)を指導する立場にあり、そのレベルの高さは授業を受ければ誰にでもわかります。変則性はないけれど技と理論がキチッと決まってる。ここを真剣に学んできた人たちを歓迎してくれるのがちゃんとした治療院・病院・高齢者施設です。基本が無ければ応用も無し。細かい実務は現場に出てからいくらでも学べます。鍼灸は伝統医学であり、ご高齢の先生や視覚障害のある先生もおられますから気配りも大切です。SNSで先生方の悪口を言いあうなどは子供のすること。すべての先生方からより多くを学ぼう、引き出そう、とするのが専門学校生です。どこの学校にも言えることですが、変な態度の生徒が混ざっていて授業の妨げになるようなことがあり得ます。授業が始まっているというのにいつまでもダラダラと私語を続けたり、ウロウロと教室から出たり入ったり、奇声を発してみたり、子供みたいに反抗的な態度をとってみたりと…他の学生は本当に迷惑するし、せっかく良い授業をしようと準備してきた先生方にも余計な負担がかかり全員の邪魔になります。これは決して許されるものではなく、数百万円をかけて臨む自分たちの勉学と権利への妨害行為と捉え、先生からではなく、学生側から戒めないといけません。それで聞かなければ学校に対して学生側の総意として、この者への公式な措置を求める。クラスがおかしなノリになると3年間の価値が下がり本来なら得られるものが半分以下になってしまいます。先生方も人間でありモチベーションが高まれば語りも増すでしょうし、そうでないなら必要なものだけに留まるのは当然のこと。一部のおかしな学生のせいで結果的に大きな損害を被るのはそのクラス全員なのです。「あいつ本当はいいやつだから…」などとお友達ごっこをして肩を持ったところで誰のためにもなりません。何のために入学したのでしたか?先生方ともクラスメートとも、そして研究会や学会関係者・治療実務者とも良い関係を築き、厳しくも楽しくて有意義な3年間になるよう心掛けて欲しいと思います。花田に入学した時点で既に東洋療法の世界に居るのだという自覚が要ります。

 

◎花田には色々なタイプの学生が集まります。スポーツ関連の人や、整体院などで実務経験のある人、ドラッグストア等で働く人、他の医療資格を持っている人、私などのように気功や太極拳をやっていて東洋医学に興味のある人などは入学当初からある程度の予備知識や将来設計ができているケースが多い一方、転職や開業にはどの医療資格がいいかな?といった感じで鍼灸校を選んだ人や、人にやさしい東洋医学のムードに引かれて入学した人などは、将来の具体的な方向性を決めるのに選択肢が多すぎて迷っていることもあるようでした。でもそんな時は少しも悩むこと無く、夏休みに数多く行われる研修会に参加してみれば自分にピッタリの流派が見つかる場合があるし、花田の非常勤講師の先生で研修生を受け入れている方もおられるのでフィーリングが合えば飛び込んで勉強させてもらうのも良いでしょう。伝統校ですから就職先も多いようです。花田はクラブ活動が活発ですから先輩・後輩・講師との交流から何かを得ることもあるでしょう。もちろん卒業と同時に一気に開業する人もいます!担任の先生やクラスメートに相談し情報交換しながら検討してみると自分に合った様々な進路が見えてくるでしょうし、このあたりの相談には花田学園はちゃんと対応してくれるはずです。

 

◎私の場合は学校付属治療院で二年間の卒後研修(無料でした)を受け、経絡治療で知られる著名な先生からご指導いただきました。患者様へのスムーズな問診を含め、高度な理論と技術を悠々と少しも力まず流れるように語り施す名人芸には心底感嘆しました。「自分に合う治療スタイルを見つけることです。ただ、東洋医学を中心に考えることは鍼灸師としての持ち味なのだから忘れちゃだめだよ。」先生はいつもこう仰っていました。

そしてこのあと開業。ご近所の皆様を中心に治療をして、他に気功指導員・訪問マッサージ・高齢者施設機能訓練指導員をしています。充実の毎日です。花田に通って良かったなと思いますし、どの業界においても花田で学んだことが通用しなかったことは一度すらありません。

 

◎昼間部は若い学生が多く、部活動や研究会活動が盛んで元気のいい普通の学校らしい様子です。夜間部はほとんど全員が仕事を持っている社会人の集まりで、10代から60代までの様々な世代・職業人がいて刺激にもなって面白いでしょうし、治療院を経営するならば色々な人に接しておく事も勉強になるのかもしれません。

スポーツトレーナーを目指す人、東洋医学に深い関心のある人、病院や福祉施設に就職予定の人、脱サラをねらう人、ボランティア活動をしたい人、教員や研究者を目指す人、鍼灸を通じて国際的な活動をしようとする人など。また庶民派の治療院をしたいと言う人もいたし、高級志向のセレブ向け治療院を開設してひと儲けするんだ!と張り切っている人などもいました。大成功している人もいるようです。

花田の教員を志す人は免許取得後2年間の鍼灸教員養成科に進み教員資格を取得する必要があります。定かではないのですが、在学中の学業はもちろんのこと、学内の様々な活動に積極的に取り組み人望もある学生には学校側から、養成科に行ってウチの教員になってみないか?と声が掛かることがある、との噂を聞いたことがあります。興味ある人は全方面に頑張ってみて下さい。

 

◎古い学校ですので数多くの鍼灸師・マッサージ師を輩出しており、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーの養成科もありスポーツ界に卒業生が多い。ちなみにこのJSPO-ATはトレーナーの世界での登竜門と言われ、取得しておくとプロスポーツやオリンピック帯同への道も開ける可能性のある高度な資格です。私が仕事で通っているフィットネス業界ではトレーナーとして活動する花田卒の人をあちこちで見かけますし、Jリーグやプロ野球などでトレーナーとして活躍する人も多く、花田AT科の授業では講師として招いて本物の指導を受ける機会もあるとか。理論試験と実技試験があり合格率は30%前後。花田からスポーツの世界に進もうとする人が取得すべき必須資格です。花田には伝統のAT研究会もあって実践的なトレーニングをしているようです。

 

◎一方、健康運動指導士は一般の人々へ医学・運動生理学に基づく安全で効果的な運動指導を計画・実施して国民全体の健康増進を担うべく厚生大臣が制定した資格であり、厚労省の特定健診・特定保健指導における運動指導分野の公式資格でもあります。フィットネスクラブでトレーナーとして働いたり医療・介護業界で活動するのに有利です。公的な資格なので行政や大企業の健康増進事業にも関われます。大卒者で鍼灸・マッサージ・柔整の免許を取れば講習会に出席して受験資格が得られます。そうでない場合は健康運動実践指導者という初級資格を取得すれば健康運動指導士試験を受けられます。合格率は受験資格区分によって差がありますがおよそ50%程度で推移しているようです。

 

 ◎参考までに、按摩マッサージ指圧師(2018年度より鍼灸師も条件付きで追認)と柔道整復師は免許を取得すると自動的に機能訓練指導員の身分が得られますので、介護施設での仕事をするのに有利です。

私は高齢者施設で機能訓練指導員もしています。利用者全員が対象のグループリハビリ体操と、身体状態が近い人4~5名の小グループ向けリハ、そしてマッサージを含む個別リハビリテーションが主務となっています。要介護度が高く自立運動が難しい人にはマッサージを積極的にどんどん施術します。受けた人は大喜びしてモチベーションも高まるようで、マッサージのメンタル面への効果が非常に高いことがわかります。介護職員のサポートとして送迎バス添乗や車椅子⇔ベッド移乗や排泄介助に食事の配膳なども手伝います。お年寄りが好きでワイワイ忙しい現場を元気よく楽しめる人には良い職場だと思います。機能訓練指導員を目指す人はご自身の全身筋トレと有酸素運動をある程度やっておくことで運動の全体像やポイント・リスク等を把握しておき、何らかの運動指導やエンターテイメント(筋トレやマシントレーニング・エアロ・ヨガ・ピラティス・ストレッチ・気功・太極拳・ダンス・歌(特に昭和の古い歌)・ゲーム体操・楽器演奏・クイズやマジック・ことわざ・絵画・書道・俳句・漫才・落語など)を経験しておくと現場で活かせます。介護補助やリハビリの内容については教えてもらえる部分と自分で組み立てるべき部分があります。歩行器や車椅子・杖やギャッジベッドなどの介護用具は様々な種類がありますので現場で積極的に触れて使用法や注意点を知っておくと別の職場に移った時にも必ず役立ちます。花田のリハビリテーション医学の授業は専門の先生が担当して下さいますから集中して勉強しましょう。

国が介護保険法に基づいて定めた機能訓練指導員7資格というのがあります。理学療法士PT,作業療法士OT,言語聴覚士ST,看護師,柔道整復師,あん摩マッサージ指圧師,鍼灸師です。見ての通りまったく違う医療資格でありながら同じく機能訓練に携わります。つまり、期待されている訓練内容がそれぞれ違うわけです。リハビリテーションの意義を中心に置きながらもそれぞれの資格所持者がその得意分野を前面に出して多角的にアプローチすることで要介護者の介護度を軽減させようという試みです。マッサージの効能って?鍼灸の特性は?柔道整復とはそもそも何なのか?リハビリ専門職のPTやOTの仕事を参考にしながらも、鍼灸マッサージ独自の技術・効能を高く意識して実務に取り組む必要があるわけです。

 

(注)鍼灸マッサージ師免許所持者が関わる様々な職種に関して私自身の経験も踏まえてここに書いているわけですが、決して忘れてはいけないのが「損害賠償責任保険の補償範囲」です。ちゃんとした施術をしていても患者さんの状態や施術環境・過失などによって相手に損害を与える可能性をゼロにはできません。免許を取ったら花田同窓会経由で東京海上日動火災の鍼灸マッサージ師・柔道整復師団体保険に入れるようになってますので加入しましょう。免許に従っていれば補償される仕組みになっていますから、施術者も患者さんも取り敢えず金銭的には守られます。もちろん事故はあってはならないものですし、お金だけで済まされないことだってありますから安心してはいけませんね。

 多くの人が参入する医療福祉業界です。当然それぞれが特色を前面に打ち出し競争しあってより良いサービスを提供しようとしているわけですが、あはき師法に柔整師法、そして損保の補償内容を見比べながら結構きわどいところでやってる業者さんも一部にいます。例えば、上に述べた機能訓練指導員の業務は介護保険法に基づく制度ですから、老人ホームや特養、デイサービスなど介護保険法に沿って運営し専門の損保に加入している施設に正職員として雇用されている場合に限って担保されることを忘れてはいけません。「私はマッサージ師免許を所持しているので機能訓練指導員ですからいつでもどこでも歩行訓練をすることができますしちゃんと保険にも入ってますからご心配なく」などは勘違いです。治療院業務や訪問マッサージ業務の中で、鍼やマッサージの本来業務とは関係なく、リハビリ等として歩行訓練などを行い転倒させ障害を与えた場合は保険はおりません。また整体やカイロなど按摩マッサージ指圧師免許で国により免じ許された術とは関係の無いものを使って怪我をさせた場合も補償されない可能性が高いことも忘れてはいけません。一見したところ業務が似通った免許があるので思い違いする人が出てくるわけですが例えば、言語聴覚士が歩行訓練するのは専門外だと思いませんか?マッサージ師ならば歩行訓練をしてもいいの?と少し考えたら分かることです。元来歩行や立ち座りなどのADL指導に免許制度はありませんから誰がやってもいいのです。しかし、各種免許や医療保険や介護保険の制度下で行う業務については万一の事故時に責任・保障問題が出てくるからそう簡単にはいかないわけです。このあたりを明快にしたいので東京海上日動火災へ問い合わせたところ、詳しく教えてくださいましたので要点を下記します。

 

①鍼灸按摩マッサージ指圧でない、免許と関わりのない手技(カイロ・オステオパシー・整体等)を使って怪我をさせた場合、内容にもよるが補償されない可能性が高い

②鍼灸按摩マッサージ指圧の施術と分けて、免許と関わりのない歩行訓練や立ち座り訓練だけを行い怪我をさせた場合、内容にもよるが補償されない可能性が高い

③鍼灸按摩マッサージ指圧の施術目的が歩行や立ち座りの機能改善である患者に、施術後の効果確認として歩行や立ち座りをしてもらっている最中に怪我をさせた場合に関しては合目的なので補償される可能性が高い

④鍼灸按摩マッサージ指圧施術のために車椅子⇔ベッド移乗中に怪我をさせた場合に関しては合目的なので補償される可能性が高い

 

①②④は当たり前ですね。微妙なことをせず免許証に従い堂々とやっていればいいのです。鍼・灸・按摩・マッサージ・指圧という歴史ある医療技術を学んで免許まで取得していながらカイロだのオステオパシーだのと、免許と関係無いものにリスクを冒してまで手を出す理由がどこにあるのでしょうか?

考えるべきは③なのですが、一例として脳梗塞の後遺症で歩行や立ち座りのADL(日常生活動作)が弱っていて、これをお世話になっている脳神経科の治療に加え担当医師に同意書を書いてもらった上で訪問マッサージを依頼してもっと改善したいと思う人もいます。この人には尖足(足先がピーンと尖った状態)や大腿部の拘縮(膝や股関節が伸び切っている状態)が見られるケースが多く、これを筋腱のマッサージで緩め、変形徒手矯正術で関節の動きを改善することになるのですが、ここで終わっては歩行や立ち座りへの効果が十分ではありませんね?変形徒手矯正術には他動運動と自動運動がありますので他動運動で動作イメージをつけてから、自動運動で歩行・立ち座りの具体的な動作を座位や寝た状態で予行練習してもらったりします。その上で、同じスペース内で実際に立ち座り・歩いてもらい動作確認・改善⇒疲れたら休んで歩行に関わる筋肉へマッサージをかけ、また歩いては動作確認・改善⇒休憩しつつ立ち座りに関わる筋や関節へマッサージをして、更に立ち座り・歩きながら動作を修正して…こういった内容なら③としてちゃんと認められ万が一の転倒事故に対しても保障対象になる正規の医療行為です。花田で「リハビリテーション医学」というのを正規の学科として学ぶのですが、この科目では歩行に関しても勉強することになり、また国家試験でもこの科目が出題されます。つまり鍼灸按摩マッサージ指圧治療に付帯するものとして歩行関連を習得しているから、あくまで鍼灸マッサージ治療の範囲においてならば、歩行に関わることができますよ、ということを意味しているわけです。

…ところが、どうにか歩ける老人ホーム在住の患者さんと一緒に外出して公園をお散歩し歩行訓練をしましょう…という一見すると和やかなシーンではあってもひとたび転倒事故が起きた場合、直属の職員でないから施設の保険はアウト。マッサージ師の損保も補償範囲を逸脱してるので②と見なされアウトです。訪問マッサージという正規の保険医療行為の時間内に起きた事故だから、マッサージ直結のものでなければダメ!ということ。ちなみにこの散歩に連れて行った担当者が老人ホームの職員(無資格のパートさんを含む)であった場合は施設の保険で補償されることはもうお分かりですね?

施設にはそこに直属の理学療法士さんもいて、疑念に満ちた目で見られることにもなります。「この人、マッサージ師さんなのにこんなことして大丈夫なの?」といった感じ。彼らはこのあたりの事情をすべて知っていて、事故を起こせばすべての責任を取らされることになります。施設から見たら「出入りしている業者さんが勝手に起こした事故」に過ぎないのですよ。

 中には損保でカバーしきれない部分についての事故時は〇〇万円以上は免責で、という個別の契約を交わして患者様ご納得の上で行っているごく少数の業者もあって、よっぽどのことが起きない限り大丈夫と考えているのでしょう。考えが甘いですね。この訪問マッサージは医療保険を使ってドクターの同意書にもとづいて行うものです。これは完全な保険医療であり、その同意書は書式が決まっていて、マッサージと変形徒手矯正術以外の内容については一言も書いてないことを知っておいてください。同意書に無いことをして大きな事故が起きてしまったときに困るのは誰でしょうか?「え!歩行訓練?マッサージだって言うから同意書にサインしたのに…俺はそんなこと聞いてないよ?!」とドクターは驚くでしょう。契約書に免責の項目があれば関係者全員が納得してくれると思いますか?怪我をした人の親族に法律に詳しい人がいたらどうするのですか?「原理原則とは違うけれど、ウチの施術内容なら保険はおりますよ、過去の事例も確認してありますからね」などと軽く言う業者がごく一部にいますが愚かな話。保険会社の方針が変わっていたらどうなるのでしょうか?東京海上日動の数年前のパンフを見た人は「歩行訓練時に事故が起きても大丈夫!」といった内容がイラストとコメントで書かれていたと記憶されていますね?今はこの部分が削除されていますよ!ご自身の目で確認すべきです。「会社に守られている」なども幻想です。業務でクルマに乗ってても事故ったら会社とは関係なく自分の責任になるでしょ?交通違反でも同じ。鍼灸マッサージ師免許証を持って仕事してるのはどなたですか?「業務委託契約」というのは、その人自身が持っている免許証と技術と責任能力を見込んで結ばれる契約であって、事故が起きた時の責任はすべてその担当者個人が負うことになるのだということを再確認しましょう。

 

もっとハッキリ言います。

 

「理学療法士から歩行訓練のやり方を習い、健康保険による訪問マッサージ業務中に患者さんを歩かせている按摩マッサージ指圧師」

 

…これに該当する人は非常に危うい立場にいます。

 

 「そんなコワいことを言われてしまうと…」っとおじけづく人もいるでしょうが、その必要はありません。早い話が免許内容と損保内容は互いに鏡写しなのだ、免許の通り正しい仕事をやってればいいんだ、と理解すれば簡単なことですよね?

 上の四つを参考にして、どんな事態に陥ったとしても患者様と施術者の双方が守られる形をとらねばならないと私自身は考えているので、それに見合う形で施術にあたっていますしこれをお読みの皆さんもそうあるべきだと思います。会社の意向よりも患者さんを守ること・医療従事者の身を守ること、が優先されるのはあたりまえ。「私は免許と損保の範囲内で仕事をしたいので歩行訓練はおことわりします」っとハッキリ言ってやってください。これに対してコチャゴチャ言う会社であればブラック企業ですからやめておきましょう。お医者さんや歯医者さん、看護師さんや歯科衛生士さんらはルールを守って仕事をしてますよね?鍼灸マッサージ師も同じなのですよ。ちゃんとした正規の医療行為としてやっていこうと考えるのが普通だしフェアプレーです。医業は節度をもってやらないといけない。かかりつけの主治医の治療の延長として訪問マッサージでもう少しだけ症状を軽減できないだろうか?と願う患者さんのご意向を尊重する制度なのですから。そしてこの素晴らしい制度を悪用したり金儲けに利用しようとする人間が増えれば制度の存続すら危ぶまれるのです。

 

◎すでに書いた通り、訪問マッサージという業種があり、私もその一つに所属しています。いわゆる「お医者さんの同意書をもらって保険で受けるマッサージ」です。脳梗塞の後遺症で体が固まってしまった人や、腰や膝が痛くて外出できない高齢者のご自宅を訪問してマッサージする素晴らしい仕事です。だからこそ、すぐ上にも書いたようにルールは守らねばなりません。ほとんどの業者が保険医療制度に従って施術しているのですが、ごく一部の業者は自社の宣伝・利益独占のため違反行為をしています。入職する際にはおかしなことをしてない会社であることを確認したほうがいいです。目先の報酬や楽しげな雰囲気だけで判断しないこと。免許持ちとして後ろめたい仕事はダメでしょ?私が上に書いたことを参照してください。

 

ちなみに私が所属する「孫の手倶楽部」は関東で活動する訪問マッサージ専門治療院ですが、ルールを完全に守っていますので安心です。長く続けるお仕事としてもお勧めできます。私が担当の町田相模原エリアをクルマで回って個人宅や老人ホームで30分マッサージ。次々と移動していきます。今の段階で一日に5件~8件ほど。訪問件数と日数は希望を聞いて調整してくれます。少ない人は週一で数万円、多い人は毎日で月収70万円だとか。私は中間くらいでしょうか。患者様に関する施術日報と毎月の経過報告書はシステム利用なのでスマホやパソコンで空いた時間に書きます。自宅に帰る前にはだいたい終えています。担当患者様の案内はメールでどんどん送られてきます。直行直帰で出社はありません。9時スタートの5時半終わりくらい。車の運転でちょっと疲れる時はありますが、患者さんに歓迎されて喜びを直接感じることのできる、マッサージ師にとって最高の職場と言えるでしょう。膝や腰に痛みのある普通の患者さんから、脳梗塞やアルツハイマーなど神経障害、パーキンソンや筋ジストロフィーなど指定難病患者さんまで広範な施術を求められます。生涯を通じて学びつづける必要のある、やりがいに満ちた仕事と言えるでしょう。

 

◎免許を取得し開業届を出した上で5年経つと介護支援専門員(ケアマネージャー)の受験資格が得られます。(ケアマネ受験を考えている人は鍼灸マッサージ師免許を取得したらすぐに保健所に開業届を出してください。店舗を出さない場合は出張治療専門でかまいません。この届日から起算して5年が過ぎるとケアマネ受験資格が得られるのでお忘れなく!)ケアマネは介護保険とケアプランに関わる介護業務全般を統括する上級資格であり、管理責任者への道もあります。合格率10~20%のちょっとした難関試験ですがチャレンジする価値は高いと思います。予備校に通う人もいましたが、私の場合はユーキャン出版のテキストと過去問集と一問一答をセットで買って、この3冊だけを何回も読んで受験しました。

私は介護付き有料老人ホームの施設ケアマネをしていた時期があります。入居者やそのご家族、介護・看護職員らとの様々なコミュニケーションを通じてケアプランを立てるのが主務です。レクリエーションでは運動指導やカラオケの司会などもするし、トイレ介助や食事配膳、車椅子を押して施設周辺のお散歩など介護補助もこなしながら入居者情報を集めていきます。高齢者が好きで世話好きで、人と関わることを楽しめるパワフルでキビキビした人に向いていると思います。カウンセラー+営業マン+事務員+介護員+エンターテイナーといったノリの職業で、関係者を回りお話をして現場を手伝い、情報をまとめたらパソコン処理といった感じでしょうか。車椅子やオムツなど介護用品の知識や移乗の技術も必要になります。まずリハビリテーション医学の授業をしっかり勉強するのが大切と思います。

 

◎按摩マッサージ指圧師と柔道整復師が病院の整形外科やリハビリテーション科に勤める就職パターンは今も昔も普通にあるのですが、更に必要な研修を受けて認定されると理学療法士と同レベルの診療報酬算定要員として勤務が可能になります。いわゆる「みなしPT」です。花田で取る免許はどちらかと言えば独立開業のイメージが強いし、それこそが醍醐味だと私は思うのですが、就職にも十分対応できるわけです。

 

◎接骨院・整骨院に鍼灸マッサージ師が柔道整復師と一緒に勤務するのも普通に見られるパターンになっています。電気をかけたり湿布をしたりの従来業務に加えてマッサージや鍼を施術するケースが増えているからです。病院と違って、東洋医学が自然療法のひとつとして世間一般に受け入れられていることをハッキリと実感できる現場と言えるでしょう。医療保険を活かして自然療法の世界を独自に切り開く意志のある人なら、鍼灸マッサージ+柔道整復師のダブル資格を取って挑戦するのも有意義なのかもしれません。花田にもこのダブル資格にチャレンジする人たちがいますが、これを持ってれば就職先はいくらでもあるので一生喰いっぱぐれはないでしょうね。

 

◎これも参考までに書きますが、鍼灸学校の生徒には漢方薬も扱いたいと考える人たちがいます。薬剤師とは別に医薬品登録販売者という国家資格があり、取得して実務経験をすればツムラの漢方製剤など一般用医薬品の取扱いができるようになります。ちょっと昔は薬種商(やくしゅしょう)という名前だったそうな。花田の授業とは別に個人で準備して受験してみるのも良いかと思います。やってみると分かるのですが、西洋薬だけでなく漢方薬学の占める割合が意外に多い試験です。東洋医学の勉強に深みが出るでしょうし、花田の漢方薬に詳しい先生からアドバイスをもらえるかも知れません。花田には本格的な漢方研究会もあります。生薬は薬品としてだけでなく横浜中華街や上野御徒町アメ横・浅草合羽橋の中華食材店やスパイスハーブ店・大型スーパーなどでも普通に安く買えるものがたくさんあって、これらを調合すると様々な薬効が得られますからよく勉強して独自の配合をするのも楽しいでしょう。ただし五味(酸苦甘辛)と五性(寒涼平温熱)が強い生薬、例えば大蒜・生姜・香菜などは手軽でも薬効が強力なので注意してください。丁字(ちょうじ・クローブ)あたりはホール(原型)のものをちょっとかじれば分かるとおり非常に強い性味で昔は麻酔に使われていたほどですから使用量は控え目にすべきでしょう。小豆蒄(しょうずく・カルダモン)も芳香性健胃剤として使われますが強い生薬です。

また、人体の構造と機能の基本を問う出題も多い試験ですから解剖学・生理学のプラスになります。合格率は30~40%で難易度は中位だと思います。手頃な本を一冊買ってよく読んで、あとはネットで過去問を十分にやっておいたら私はいけました。ドラッグストアーのバイトでは時給が少し上がるそうです。

 

◎鍼灸科と柔道整復科同時入学の学生もいて、大変そうではありましたが昼間部と夜間部を行き来しながら3年間ですべての免許を取得していました。また、先に柔道整復師を取得して整形外科に入職し、同時に夜間部の鍼灸マッサージ科に進学して仕事と勉学を両立しながら6年かけて花田を卒業した人もいました。

 

◎夜間部鍼灸マッサージ本科は土曜日も授業があってキツいかに思えるのですが、花田の実際はカリキュラムに余裕があって夏休みも長く、学外研修などに参加する時間も取れてゆったりと勉強できます。土曜日が休みの他校は夏休みが短く普段の授業もびっしり詰まっていて逆に大変だと聞いています。

 

◎学費は鍼・灸・マッサージの三資格を取得できる学校では比較的低額で渋谷のど真ん中にある学校としては随分と良心的です。私学にありがちな豪奢を演じる飾りっ気はありませんが、施設やカリキュラムに教授陣など、少しも不備は感じられませんでした。特殊な趣向の鍼灸学校に興味がある人は別として、普通にバランスよく学びたい人にお勧めできるのが花田です。

 

◎国家試験に向けての指導は万全です。十数科目から出題されるそれなりにボリュームのある試験なので大変ではありますが、全科目を3年間ちゃんと学んできたかどうかを確認するためのシンプルな内容です。普段からキッチリと予復習する習慣があって、どの授業も楽しみ敬意と興味を持ち、疑問があれば先生に率直に質問してスッキリできる人であるならば、余裕をもって合格できるでしょう。心配は要りません。緊張症で試験が苦手の人は普段から試験場面でのシミュレーションをしておいて実力を発揮できるよう工夫をしましょう。努力を重ねている人には十分に力が満ちています。

仮に国家試験不合格だった場合でも特別講義などでフォローしてくれる制度があると聞いています。不安に思う人は上にも書いた通り、前もって余裕を持っておくのも一考でしょう。

 

◎図書館はさすがに伝統校の充実度で、東洋医学から整形外科分野まで満足いく蔵書でした。古くてボロボロの本もありますが、貴重な資料でもありますから大切に扱ってくださいね。

 

◎校舎はビルに入っていて何かとスムーズでした。窓からの眺めが良く、大都会なのに緑が豊かで窮屈な感じがありません。小鳥や蝶々が舞い降りる不思議な渋谷空間でした。夕日が差すとみんなセピア色に美しく見えました。

 

◎渋谷駅から徒歩5分ほどで通学がとても楽です。国道246号線の歩道橋を渡って桜ヶ丘の坂道を登り切ったところに花田学園はあります。

 

◎入学難易度についてですが、これだけの条件が整っていて業界でも評判の良い学校ですので全国的に定員が少ない鍼灸マッサージ本科に関しては希望者が集中し、入試倍率は5倍程度と高く、それなりの難関です。しかしそこで得られるものは多く、社会的にも強い資格を取得することになりますから、門をたたいてみる価値はあるのではないでしょうか。

 

 

(まとめ)

この花田に関するページ、最初はもっと簡単で短い内容だったのですが、ご覧になられた学生さんや入学希望者にそのご父兄さま、中にはどちらかの鍼灸学校の教員の方々などからもメールで様々な追記のご要望をいただいてきました。それらを見てあれこれ書き足してるうちにちょっとした文量になってしまい、あとで読み返すとけっこう突っ込んだ難解?なことも書いてますよね。不安になった人がいるかもしれません。でも実際の花田の授業は本当の初心者レベルから入りますので心配なさらないでください。ちゃんと授業と試験についていけてればオッケーで、国試前には過去問を繰り返しやってくれるからぜんぜん大丈夫なんですよ。実際はね。いい学校ですよ。楽しんでください。


学生の自主性を大切にしながらも礼節を重んじる学風は、登校時間に合わせて毎日のように校門前に立ち学生たちに元気よく声を掛ける学長の櫻井康司先生のお人柄から来るものに違いありませんし、そのお姿を3年間見続けた者としては、優れた教授陣を招聘できる底力はここにこそあると確信しています。また、3年間クラス担任をしていただいた灸治療研究で知られる光澤弘先生からは卒業後長い年月が経った今ですら教えをいただいており、私にとってこの上なく有難い存在です。特段、学校の宣伝をする意図はありません。しかし、この花田学園は何か強くて正統な信念のようなものを感じさせる良質な学校と思いますので、どなたかのご参考になればと願い書き添えておきます。

笠松博

 

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